【特別コラム】日本経済代表団の訪中:日中関係の現実と挑戦
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【2月28日 東方新報】日本経済団体連合会の十倉雅和(Masakazu Tokura)会長など経済界の代表らが参加した「日中経済協会」の代表団が訪中し、中国の何立峰(He Lifeng)副首相(党中央政治局委員)と会談した。
第2次トランプ政権(2.0)がスタートし、国際情勢が大きく変化するなかでの中国訪問だ。中国経済にも回復の兆しが見え始めたというタイミングだった。
そのため会談には注目が集まり、メディアも大きく扱ったのだが、その予定調和の切り口には首をひねらざるを得なかった。
報道の傾向は主に三つ。一つ目はトランプ2.0の不可測性に備え中国が日本に接近したというもの。二つ目は逆に日本を冷遇したとの見方。そして三つ目が「日本側が中国ビジネスでの懸念を伝えた」である。
順番に見てゆこう。
まずは「中国が接近してきた」との見立ては日本の過大評価だ。中国はいま日本が考える以上に長期的な視点で対日関係を位置付け、短期的な成果を求めていない。半導体分野の技術では日本を必要としているが、米中対立を緩和できる要素とは考えていない。
続いて第2の視点だが、これはある意味では正鵠(せいこく)を射ている。だがそれは報道で指摘された「日米首脳会談で台湾海峡に言及した意趣返し」というのは考え過ぎだ。
もちろん日米首脳が台湾海峡に言及することに中国は敏感だ。だが、嫌がらせのため多忙を極める政治局委員のスケジュールを再調整する理由にはならない。
中国の対日外交は、「言うべきことは言うが、その範囲を限定し、全体を安定させる」方向だ。私はこれを中国版「スモールヤード・ハイフェンス」と呼んでいる。つまり正式ルートで苦言を呈せば十分なのだ。
気になったのは「前回は李強(Li Qiang)首相だったが今回は副首相」で「格落ち」という解説だ。
確かに何立峰氏は李強氏より下の政治局委員だ。しかし会談の直後に米中の貿易問題に絡み米国のベッセント財務長官と電話会談を行ったキーマンでもある。何氏は福建省時代からの習近平氏の腹心で、結婚式の付き添い役を務めたほどの間柄だ。実務的な視点からも日本にとって過不足ない人選だった。
だが何氏が会談相手だったことに特別な理由はない。先に訪中した国際貿易促進協会の代表団にも何氏が対応した。だから「今回も」というある種の平等の原理だからだ。
問題はそんなところにはない。注目すべきは、もっと以前から日本の存在感の低下が顕著であったことだ。
例えば昨秋、南米ペルーで行われたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席した石破茂(Shigeru Ishiba)首相と習近平(Xi Jinping)国家主席の首脳会談だ。
中国中央電視台(CCTV)の「新聞聯播」は、その日、前後して行われた6か国の首脳会談のなかで、日本を最後に報じたのだ。
CCTVが報道する順番は、そのまま国の重要度を反映する。ちなみに日本は、韓国、チリ、タイ、シンガポール、ニュージーランドの後塵(こうじん)を拝し、最後だった。
これが中国側の嫌がらせならまだ救いはある。しかし、実態はそうではない。
ここ数年、中国の目は顕著に西へと向いている。昨年の重要外交イベントは、中国アフリカ会議、上海協力機構(SCO)、新興5か国(BRICS)、APEC、主要20か国・地域(G20)だった。そして、こうしたイベントに横断的にかかわるのが一帯一路(Belt and Road)である。
こうして並べてみると日本との接点が薄いことがよく分かる。
今後、中国が重視するのは日中韓の枠組みだが、これを日本がどうハンドルできるかが対中外交の要となる。
だが、第3の視点で触れたような「中国に懸念を伝えた」的な姿勢で中国と向き合おうとすれば、日本の存在感は自然に下がってゆくことは避けられないだろう。
米国を中心に西側先進国の動きにばかり気を取られている外交がいつまで通用するのか。日本も真剣に考える段階に来ているのではないだろうか。【拓殖大学海外事情研究所 教授 富坂聡】
(c)東方新報/AFPBB News