【4月2日 AFP】世界有数の豊かな食文化を誇る米ニューヨークで、市と州の間でフォアグラをめぐる論争が繰り広げられている。市は動物愛護活動家の後押しを受けている。一方、州はアヒル農家やレストラン経営者を支持している。

 マンハッタン(Manhattan)の高級レストランで食事を楽しんでいたカレン・フロマーさん(78)は、市当局がフォアグラの流通を禁止しようとしていることについて尋ねると肩をすくめた。「アヒルの餌のやり方ばかりが注目されるけど、子ヒツジの処分とか、巨大な建物に押し込められたニワトリの映像も見ればいいと思う」

 フランスは物議を醸すフォアグラの輸入を停止したため、ニューヨークのフォアグラはすべて州内で生産されている。

 ニューヨーク市議会は動物愛護団体のロビー活動を受け、アヒルやガチョウに強制給餌で肝臓を肥大させ、人間の食用にするフォアグラは残酷だと判断。ビル・デブラシオ(Bill de Blasio)前市長は2019年11月、カリフォルニア州に続いてフォアグラの販売、提供、所持を禁止する条例に署名した。3年後の昨年11月に施行されるはずだったが異議が申し立てられ、現在裁判所が審理している。

 市の条例に異議を唱えたのは、州農業・市場局の支持を受けたレストラン経営者やフォアグラ生産農家だ。

 昨年からビーガン(完全菜食主義者)のエリック・アダムズ(Eric Adams)氏がトップとなった市は今年1月、禁止令を軌道に戻すために州を提訴し、論争はさらに深まった。

 州の二大フォアグラ生産農家の一つ、「ハドソンバレー・フォアグラファーム(Hudson Valley Foie Gras Farm)」のマーカス・ヘンリー副社長(66)は、マンハッタンから北西に2時間ほどにあるファーンデール(Ferndale)の巨大なアヒルとニワトリの飼育場を案内してくれた。ここでは生後3日目から105日目で殺処分されるまでのアヒル数万羽が飼われている。

 中南米出身の労働者320人を雇用する農場の年間売上高は2500万ドル(約33億円)。禁止令が施行されれば、その4分の1を失うことになる。

「裁判になると、いつも少し心配になる」とヘンリー氏。「(しかし)州が認めている農業地区で、農業に悪影響を及ぼすような市条例を通すことはできない」と力を込めた。

 養鶏場特有の刺激臭が漂う飼育舎で、プラスチック製の管やチューブが付いた器具で、生後3か月のアヒルの口に水に混ぜた穀物が強制的に流し込まれる。

 強制給餌は英国を含む数か国で禁止されているが、ヘンリー氏は経験的に「動物が苦しむことは絶対にない」と主張する。「擬人化するのは簡単だ。(だが)動物と人間は違う」

 一方、ニューヨーク市の条例づくりに取り組んだ動物愛護団体「ボーターズ・フォー・アニマルライツ(Voters for Animal Rights)」の弁護士ブライアン・ピーズ氏は、強制給餌にショックを受けた。「すべての動物は人道的な扱いを受けるに値すると信じている人が大多数だ」

 ピーズ氏は今後数か月で、市の食卓からフォアグラが姿を消すと確信している。しかし、判事らが最終的な判断を下すまで、すべては臆測でしかない。(c)AFP