【5月21日 AFP】「ルバーブにおしっこしておいで!」──フランスのエンジニア、ファビアン・エスクリエ(Fabien Esculier)氏は、祖母のユニークなガーデニングを今でもよく覚えている。

 祖母のやり方にヒントを得てキャリアを築き、今は「OCAPI(都市における炭素・窒素・リン循環の最適化)」という研究機関で、食糧システムと人間の排せつ物管理について研究している。

 工業型農業が当たり前となった今、人間の尿を肥料にするのは時代遅れに見えるかもしれない。しかし、一部の研究者の間では、化学物質への依存を減らし、環境汚染を防ぐ方法への関心は高まっている。人間は植物が必要とする窒素、リン酸、カリウムなどの養分を食べ物から摂取し、「主に尿として排せつしている」とエスクリエ氏は説明する。

 窒素化合物を用いた化学肥料は約1世紀前から使われ始め、人口が増え続ける中、農作物の収穫量を増やすことを可能にした。しかし大量に使用されると、河川や水路に流れ込んで藻類が異常繁殖し、酸素不足で魚や水生生物が死んでしまう場合もある。

 また、こうした化学肥料から発生するアンモニアは、自動車の排ガスと結合して大気汚染の原因となっていると国連(UN)は指摘。さらに化学肥料は亜酸化窒素を発生させ、気候変動の一因ともなっている。

 一方で、人間の尿も栄養素による汚染の原因となっている。米リッチアース研究所(Rich Earth Institute)のジュリア・カビッチ(Julia Cavicchi)氏によると、排水に含まれる窒素の約80%、リンの半分以上が尿に由来する。

 カビッチ氏は「窒素化合物が放出されると温室効果ガスの主な原因となる一方、リンは限られた再生不可能な資源であるため、尿転用システムが実現すれば、排せつ物処理と農業生産の両方において長期的で柔軟なモデルを提供できる」と期待する。

■マイナスイメージ

 しかし、現代社会において尿を回収するには、トイレや下水道システムそのものを見直す必要がある。

 1990年代初頭、スウェーデンでエコビレッジ数か所を選び、尿を肥料に転用する試験的プロジェクトが開始された。現在では、スイス、ドイツ、米国、南アフリカ、エチオピア、インド、メキシコ、フランスでも進められている。

 スイス連邦水資源科学技術研究所(Eawag)の研究員トーベ・ラーセン(Tove Larsen)氏は「環境分野の技術刷新、特に尿の分離のような技術は根本的な変更が求められるため、導入するには時間がかかる」と語る。

 初期の「し尿分離トイレ」は、見栄えや実用性、悪臭などの問題があったという。だが、Eawagとスイスの企業が新たに共同開発したトイレは、尿が別の容器に流れるようになっている設計で、こうした問題を解決できると期待されている。

 尿を回収したら、それを処理する必要がある。尿は通常、病気の感染源にはなりにくいため、世界保健機関(WHO)が推奨する処理方法は、一定期間放置することだが、低温殺菌することも可能だ。さらに濃縮・脱水、容積の圧縮、運搬コスト削減などのためにさまざまな技術がある。

 もう一つの課題は、尿転用に対するマイナスイメージを払拭(ふっしょく)することだ。仏パリの計画当局は、店舗と住宅600戸から成るエコ地区を開発中で、尿を回収し緑地の肥料として活用する計画を進めている。

 パリのレストラン「211」には、無水で尿を回収するトイレが設置されている。オーナーのファビアン・ガンドッシ(Fabien Gandossi)氏は「とても好評です」と言う。「少し驚かれますが、従来のトイレとほとんど変わりません」

 合成肥料の価格は、ロシアのウクライナ侵攻による供給不足で高騰しており、各国は食糧安全保障を強化する必要に迫られている。こうした事態は「このテーマについてもっと知ってもらう」きっかけになるかもしれないと、パリの当局者は語った。

 映像は3、4月に取材したもの。(c)AFP