【3月20日 AFP】医師のオサマ・ジャリ(Ossama Jari)氏は2014年、祖国シリアの首都ダマスカスを離れ、黒海(Black Sea)沿岸にあるウクライナの港湾都市ミコライウ(Mykolaiv)へと逃れた。妻はウクライナ人で、ジャリ氏がこの国に留学していたときに知り合った。

 だが、平和に暮らしていた二人の背後に、今また戦争とロシア軍の爆弾が迫っている。

 ミコライウは11日夜から翌日にかけて、ロシア軍の容赦ない爆撃を浴びた。市北東部にある眼科診療所にいたジャリ氏は、職員や患者と共に地下室へ避難した。死者の報道はなかったが、窓ガラスは吹き飛ばされ、地面は砲弾で穴が開き、近くのボイラー室は被弾した。

「信じられませんでした」とジャリ氏。「ここで平和に暮らしていたのに。ロシア人は何をやっているんだ? 私たちを何から救おうというんだ? 彼らロシア人からではないのか?」

 船やいかりの柄があしらわれたカジュアルなシャツ姿で、ジャリ氏はなお患者の診察を続けていた。だが、眼鏡の奥の目には疲れがにじんでいるように見える。

 祖国シリアからの退避を余儀なくされたのも、ロシア軍が介入した内戦が理由だったというのは、非情な運命のいたずらだったとしか言いようがない。

 ロシアは2015年、バッシャール・アサド(Bashar al-Assad)政権にてこ入れするために、シリア内戦に軍事介入した。

「シリアとウクライナは今、同じ状況だ」とジャリ氏は言う。「戦争は戦争だ。向こうで終わっても、そこここでまた起きる。戦争は最低だ」

 だがジャリ氏は政治的な事柄に引きずり込まれるつもりはない。「ロシア人? ロシア政府? そんな話はしたくない」。ジャリ氏はそう言うと、患者を診るために階段を上っていった。(c)AFP/Cecile FEUILLATRE