【1月29日 AFP】米ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)の女子水泳選手リア・トーマス(Lia Thomas、22)は、その圧倒的な強さで米国の大学女子水泳界を席巻している。だが彼女は、つい数年前まで男子チームに所属していた。

 トーマスによる今シーズンの活躍は、スポーツにおける包摂性とトランスジェンダー選手の参加要件についての議論を再燃させた。トーマスをめぐる議論を受け、全米大学体育協会(NCAA)は規定を変更。エリートレベルの競技を管轄する米国水泳連盟(USA Swimming)も、規定変更を検討している。

 さらに、右派の反発も議論を激化させている。ドナルド・トランプ(Donald Trump)前大統領は今月、アリゾナ州での政治集会で、トーマスを名指しはしなかったものの、「記録を30秒も更新している水泳選手を見たか」と発言。「われわれは女子スポーツに男性が参加することを禁止する」と宣言した。

■「過剰な成績」?

 トーマスは、論争勃発後に応じた数少ないインタビューのうちの一つで、自分がトランスジェンダーであることを認識したのは2018年夏だったが、性別移行に伴う不安を理由に、当初は男子チームで競技を続けたいと考えたと説明している。

 トーマスは競泳情報ウェブサイト「スウィムスワム(SwimSwam)」のポッドキャストで、性別移行後に水泳を続けられるのかがわからず、「大きな苦痛」を感じていたと告白。「水泳や学業、友人関係に思うように集中できなかった」と語った。

 性別移行を開始したのは19年5月で、テストステロン抑制剤とエストロゲンを組み合わせたホルモン治療を受け始めたという。女子チームに入部したのは昨年9月のことだった。

 トーマスは女子選手としての初シーズン、対戦相手を圧倒している。昨年12月上旬、オハイオ州で開催された大会では、200メートル自由形と500メートル自由形で今年のベストタイムを記録。先週末行われたハーバード大学(Harvard University)との対抗戦では、100メートル自由形と200メートル自由形で優勝した。

 NCAAは以前から、トランスジェンダー女性が女子競技に参加する条件として1年間のテストステロン抑制剤使用を定めており、トーマスはこの条件を満たしていた。しかし規定の変更により、各選手は今後、テストステロン値が各競技で定められた上限を下回る必要がある。

 問題となっているのは、テストステロンが競技成績に与える影響だ。テストステロンは思春期の男性の筋肉発達を促進するホルモンで、トーマスは思春期後に性別移行したため、その体格が不公平な優位性を生んでいるとの批判も上がっている。

 元エリート選手やスポーツ関係者からなる支援団体「女子スポーツ方針ワーキンググループ(Women's Sports Policy Working Group)」は書簡でNCAAに対し、「リアは女子競技で過剰な成績を残している」と指摘。トーマスを含むすべてのトランスジェンダー女性が女子競技への参加を許されるべきだとしつつも、「男性の思春期に生じた競技上の優位性を、元の状態に戻した」ことを証明する必要があるとの見方を示した。