【1月9日 AFP】南米コロンビアのビクトル・エスコバル(Victor Escobar)さん(60)は7日、末期症状に苦しむことなく、自ら人生に幕を引いた。エスコバルさんの安楽死は裁判所の画期的な判断に基づくもので、死の直前に撮影した動画が公開された。

 動画は亡くなる数時間前に撮影され、報道機関に送られた。カトリック教徒のエスコバルさんはその中で、自発呼吸ができなくなる肺疾患との2年におよぶ闘いに勝ったと晴れやかに話した。「誰でも少しずつ、その時に近づく。だから、さようならは言わないで、また会おうと言っておく。私たちは少しずつ、神のみもとに進んで行くのです」と語った。

 代理人の弁護士がツイッター(Twitter)で明かしたところによると、エスコバルさんは西部カリ(Cali)で、医師の立ち会いの下で亡くなった。

 動画には、家族に囲まれて笑みを浮かべる生前最後の姿が残されていた。その後、エスコバルさんは鎮静剤を投与され、さらに致死薬を注射された。

 コロンビアは1997年に自殺ほう助を非犯罪化し、昨年7月には高等裁判所が「尊厳ある死の権利」を末期疾患の患者以外にも適用を拡大することを認めた。南米初かつ世界でもまだ珍しい踏み込んだ判断だ。コロンビアは国民のほとんどがカトリック教徒で、教会は安楽死にも自殺ほう助にも断固反対している。

 欧州では、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、スペインのみが安楽死を合法化している。

■裁判で勝ち取る

 だが、エスコバルさんにとって安楽死実現までの道のりは楽なものではなかった。昨年7月まで、エスコバルさんのように慢性疾患で余命半年以上と宣告された患者には、安楽死は認められていなかった。10月には病院側が、症状が末期ではないとしてエスコバルさんの安楽死申請を却下。エスコバルさんは裁判を起こし、勝訴した。

 10月にAFPの取材に応じたエスコバルさんは、糖尿病と循環器系の病気も患い、車椅子の上で全身をけいれんさせながら「具合が悪い。肺がいうことを聞かない」と苦しみを訴えていた。

 NGO「尊厳死の権利財団(Foundation for the Right to Dignified Death)」のモニカ・ヒラルド(Monica Giraldo)氏は、余命半年以上と宣告された慢性疾患患者について「意思に反して、尊厳のない状態で生きることを強いられていた」と述べた。

 ヒラルド氏によると、高裁が安楽死の拡大適用を認めて以降、末期症状でない患者3人が安楽死を選んだ。その様子を撮影・公開したのはエスコバルさんが初めてだという。

 エスコバルさんは生前、「私のような変性疾患の患者が安らかな眠りにつける道を開くため、私の話を知ってもらいたい」と話していた。

 亡くなる直前には「苦しみを終わらせようとしたからといって、神様が私を罰するとは思えない」と語った。(c)AFP/Juan Sebastian SERRANO