【1月16日 AFP】ユカタン半島(Yucatan Peninsula)に計画されている大規模な観光鉄道「マヤ鉄道(Tren Maya)」の建設をめぐり、先住民の蜂起で知られるメキシコ最貧地域の住民が二つに分かれている。

「鉄道はここを通らない!」と喜んだのは、グアダルーペ・カセレス(Guadalupe Caceres)さん(64)。当初の計画が変更され、自宅の敷地を線路が通る心配がなくなった。

 一方、「負けてしまった。近代化よ、さようなら」と肩を落とすのは、錠前職人のルベン・アングロ(Ruben Angulo)さん(49)。立ち退きで新しい住居に移れると考えていたのだ。だが、政府の公約である50万人分の雇用創出には期待を持ち続けている。

 全長1500キロ、ユカタン半島(Yucatan Peninsula)を周回する鉄道建設プロジェクトは、アンドレス・マヌエル・ロペスオブラドール(Andres Manuel Lopez Obrador)大統領が2019年に打ち出した肝煎り政策だ。

 海辺のリゾート地カンクン(Cancun)やトゥルム(Tulum)、マヤ文明の遺跡があるチチェンイツァ(Chichen Itza)、パレンケ(Palenque)など人気の観光地を鉄道で結ぶ。

 100億ドル(約1兆1400億円)を投じる鉄道プロジェクトは、中南米で最大規模を誇る。大統領はチアパス(Chiapas)、タバスコ(Tabasco)、カンペチェ(Campeche)、ユカタン、キンタナロー(Quintana Roo)各州の観光を促進する「正しい行動」だと主張する。

 1300万人が暮らす同地域の貧困率は50%を超え、チアパス州においては75%に達する。地域の公共交通機関は貧弱で人気の観光地も主要都市から離れている。

 カンペチェは植民地時代の要塞(ようさい)都市で、全15駅からなるマヤ鉄道の1駅が建設される予定だったが、カセレスさんら住民が裁判所に異議を申し立てた結果、線路は市中心部ではなく街はずれを通ることになった。「もちろん近代化は進むだろうが、私の家を犠牲にはさせない」