【11月20日 AFP】イスラム教徒が大多数を占めるトルコで、キリスト教を信仰する少数民族アッシリア人の実業家ユハンナ・アクタシュ(Yuhanna Aktas)さん(44)は、とりわけ保守的な南東部に住んでいる。だが今ではもう村人たちに、彼らが収穫したブドウがワインになることを隠す必要はない。

 アッシリア人がわずか3000人程度まで減ってしまったマルディン(Mardin)県で、隣人や地元の役人に受け入れてもらおうと孤独な闘いを続けてきたアクタシュさん。イスラム教徒はアルコール飲料の販売に眉をひそめる。

「ブドウ栽培とワイン醸造、それから消えゆくアッシリア人の文化の復活は、子ども時代の夢でした」とアクタシュさんは語った。脇に並ぶたるには、シリア国境まで50キロのこのミドヤト(Midyat)の町で採れた白ブドウから生まれたワインが詰まっている。

 古代メソポタミアの一部だったこの地域では、2700年前にワイン醸造が始まったとみる歴史家もいる。しかし、アッシリア人は差別や暴力にさらされ、ほとんどが最大都市イスタンブールや欧米諸国へ移住した。トルコ全土でもオスマン帝国時代に70万人いたアッシリア人は、現在1万5000人まで減少している。

 長年の間に徐々にアッシリア人が去っていったことで、マルディン県のブドウ栽培の伝統は大きな打撃を受けた。アクタシュさんも夢の実現に向けて苦難の道を歩むことになった。

 2009年、初めてワイン生産に取り掛かろうとしたアクタシュさんは、複数の殺害脅迫を受けたという。「私のところで働こうという人はいませんでした。村人も、イスラム教ではワインは禁じられていると言って、ブドウを売ってくれませんでした」

 それでも辛抱を重ね、今ではトルコ各地で年間11万本を販売するまでになった。成功の秘訣(ひけつ)は、適切な在来種のブドウを選ぶことだったとアクタシュさんは明かす。仏アルザス(Alsace)産の白ワインに使われるブドウ品種ゲベルツトラミネールに近い、際立ったアロマが特徴のマズローナ種もその一つだ。

 有機栽培のブドウを原料とし、酵母や酸化防止剤を使わず自然発酵させるワインは、健康にもはるかにいいとアクタシュさんは誇らしげだ。事業は順調で、ミドヤトのブドウ畑から約30キロ離れた生まれ故郷のベスクスタン(Beth Kustan)村に、2番目の生産拠点を立ち上げた。