【9月26日 AFP】中国南西部で育った馬明亮(Ma Mingliang)さん(42)が子どもの頃は、野生のゾウと遭遇することなどめったになかった。何世紀にもわたる狩猟や森林伐採で、ほぼいなくなっていたからだ。しかし今では村長として、ゾウを寄せ付けないために自分の村をバリケードで囲んでいる。

 さまようアジアゾウの群れが1年以上にわたって、中国の関心を集めている。群れは生息地の雲南(Yunnan)省を離れ、農地や都市を抜けて数百キロも移動している。

 この14頭の本来の縄張りは、ミャンマーやラオスと国境を接する雲南省南端の亜熱帯に位置する西双版納(Xishuangbanna)タイ族自治州だ。中国で個体数が回復しているゾウが集中する地域だが、生息地は狭まる一方で、住民がゾウを見かけることが多くなった。その分、人間との衝突も増えている。

 馬さんの村、香烟●(Xiangyanqing、●=たけかんむりに青の旧字)ではゾウとの緊張関係が明らかだ。

 なだらかな丘にこぢんまりとした家が並ぶ村には、ところどころに人とゾウの「調和」を奨励する看板が掲げられているが、周囲のジャングルとは鉄柵で隔てられている。

 住民の多くがゴムの樹液採取で生計を立てている村の入り口は夜間、大きな鉄門で閉ざされ、餌を求めるゾウの進入を防いでいる。

■「昔は調和が取れていた」

 それでも時々ゾウが入り込んでは、果実や野菜を奪っていく。ゾウが立ち去るまで、村民は外出禁止だ。「昔は調和が取れていたんですが、今では対立です」と馬さんは語る。皮肉なことに、保護策の成功があだとなった一面がある。

 インドから東南アジアに分布するアジアゾウは、中国国内でほぼいなくなっていた。1980年代には、西双版納の個体数はわずか150頭前後まで減った。

 自然保護活動家によれば、1988年にゾウ狩りが禁止され、分散しているゾウ保護区の徹底的な保全で事態が好転したという。

 天敵の不在にも助けられ、個体数は300頭以上に倍増し、さらに増加中だ。「私が子どもだった頃と比べて、今は群れの中に子ゾウが多いです」と馬さん。

 ゾウの体重は最大4トン程度で、1頭で1日当たり200キロもの餌が必要だ。その食欲を満たすため、地元の農地が頻繁に荒らされるようになっている。ゾウによる経済的損失は年間で推計2000万元(約3億4000万円)に上ると言う。

 ゾウの保護政策に携わる北京師範大学(Beijing Normal University)の張立(Zhang Li)教授(保全生物学)は、同自治州での保険金請求の最大の理由はゾウによる農作物や家屋の被害だと話す。

 また張氏によると、2013年から2019年にかけて少なくとも41人の命がゾウによって奪われた。負傷者はさらに多い。子ゾウを守ろうとする母親ゾウや、群れから孤立した気の荒い若い雄による襲撃が典型的で、現場は凄惨(せいさん)なありさまとなる。