【9月23日 東方新報】中国当局が9月上旬に発表したある方針が、中国の「腐女子」たちに大きな衝撃を与えた。中国共産党中央宣伝部や政府の国家新聞出版署は大手インターネット企業の騰訊(テンセント、Tencent)や網易(Net Ease)などに対し、オンラインゲームのコンテンツの審査強化や未成年のゲーム中毒防止措置を求めたと同時に、「耽美(ボーイズラブの意味)、娘炮(女々しい男)などの不良文化を断固排斥する」と表明したためだ。中国では最近、男性同士の濃厚な友情を描くネットドラマが爆発的に人気を集めていたが、今後はお蔵入りになることが確実となった。

「耽美」という言葉は、日本からボーイズラブ小説やドラマと共に中国で広まった。2016年には、男子高校生の同性愛を題材としたネットドラマ『上癮(ハイロイン、Addicted)』が大人気となった。「上癮」は「中毒」「やみつきになる」という意味。同性愛を正面から取り上げたことが問題となり途中で放送中止となったが、親密な男性2人の関係を主軸とした「男男CP(男性カップル)」ドラマが増えていくきっかけとなった。同性愛は直接描かないが、男性2人が濃厚な友情を展開することから「耽改劇」と呼ばれるようになった。イメージとしては欧米や日本で言う「ブロマンス(ブラザーとロマンスを合体した造語)ドラマ」に近い。

 2018年には、大学教授と特殊事件調査官の男性2人が怪奇事件を追うネットドラマ『鎮魂(Guardian)』が動画再生回数36億回を突破した。原作のボーイズラブ小説を熱い友情関係に切り替えたストーリーは、むしろ視聴者の「想像力」をかきたてたと言われている。2019年には、「唯一無二の友情」を誓い合った男性2人が主役のファンタジー時代劇『陳情令(The Untamed)』が動画再生回数80億回に達し、この年のネットドラマナンバーワンに輝いた。今年に入ると、やはりボーイズラブ小説が原作で、武術にたけ義理を重んじる男性2人の時代劇『山河令』が大ヒット。これらのドラマは日本でも紹介されている。中国メディアによると、今年1年間で放送予定の耽改劇は60作品近く、「耽改劇元年になる」と言われていた。

 中国では、こうしたボーイズラブに夢中になる女性を「腐女」と呼ぶ。これも日本の「腐女子」が由来だ。2015年、中国の検索サイト最大手「百度(Baidu)」に関連の投稿をした「腐女」は173万人だったが、現在は464万人を超えている。急増する「腐女」たちが耽改劇のコアファン層だが、ネット企業などは「耽改劇は金のなる木」として力を入れ、総制作費が1億元(約17億円)を超えるドラマも当たり前に。超絶イケメンが主役で魅力的なストーリー、映画顔負けの撮影体制により、耽改劇は「出圏(特定のグループを飛び出す)」の一大ジャンルとなった。

 ただ、今年に入ると国営メディアが「耽改劇はまだ社会に出ていない若者に悪影響を与える恐れがある」「倒錯した美的志向と病的なマーケティングを改める必要がある」とする記事を発表しており、今回の「禁止令」につながった。このため、制作費2億5000万元(約42億2678万円)をかけて放送開始が注目されていたファンタジー時代劇『皓衣行(Immortality)』をはじめ、1億元以上かけた何本もの耽改劇が放送の見通しが立たなくなった。ネット企業など制作側は大損害を受けることになる。内容を大幅に変えて放送にこぎつける方法を模索する動きもあるようだが、実現しても「腐女」らのハートに届くことは難しいだろう。「日本発ブラマンスドラマ」と言える耽改劇は命運を絶たれる危機に立たされている。(c)東方新報/AFPBB News