【8月31日 東方新報】中国で「ビッグデータ殺熟」と呼ばれる現象が問題となっている。「殺」は「冷遇する」というニュアンス、「熟」は「熟客(常連客)」のことで、「常連客を冷遇する」という意味。インターネットを通じて食事の出前やホテルの予約、タクシーの手配などをする際、業者側がビッグデータをもとに常連客や会員の料金を高くする行為を指す。今月20日に可決、成立した個人情報保護法では「ビッグデータ殺熟」を違法行為とみなし、政府が規制に乗り出した。

 上海市の張さんはある日、会員になっている出前アプリで食事を注文したところ、配達料込みで料金は50元(約850円)と表示された。「前と同じメニューを頼んだのに、高くなっている」と気づき、妻のスマートフォンで同じ食事を注文してみると料金は45元(約764円)と表示された。業者側が顧客の履歴データに基づき、会員の価格を釣り上げたとみられる。張さんは「会員の方が、値段が高くなるなんて、消費者をだます手法だ」と憤る。

 湖北省(Hubei)武漢市(Wuhan)の大学生2人がスマートフォンで同じホテルを別々に予約した際は、たびたびそのホテルを利用した学生は宿泊料金が230元(約3910円)、初めての学生は195元(約3314円)と提示された。どちらも割引クーポン券などは使用していない。「常連客は多少値段を上げても利用する。初めての客は少し価格を下げて常連にする」という設定に基づき、ホテル側のサイトが自動的に別々の料金を計算したようだ。

 広東省(Guangdong)広州市(Guangzhou)の李さんは会社から取引先の事務所へ向かう際、いつもの配車アプリでタクシーを呼んで移動したところ料金は30元(約510円)だった。少し遅れて来た後輩は同じルートで料金は20元(約340円)。後輩は、その配車アプリを初めて使っていた。

 こうした「ビッグデータ殺熟」は2018年ごろから問題化していた。中国のインターネットの利用者は10億人近くに上り、ネット通販やキャッシュレス決済などのサービスが広く普及。その中で業者側が大量の個人情報を集積し、ビッグデータに基づき常連客に高い価格を設定するようになっている。

 文化観光部は昨年10月に「オンライン旅行経営サービス管理暫定規定」を発表。オンライン旅行経営者がビッグデータにより不合理な価格設定をすることを禁じ、違反した場合は最高3万元(約51万円)の罰金を科すとした。今年2月には電子商取引プラットフォーマーにも同様の規制がされた。しかし、その後も同様の手法は横行している。こうした問題を受け、8月に成立した個人情報保護法では、企業に個人情報の保護を義務付け、収集した情報に基づき取引価格などに差別的扱いをしてはならないと明確化した。

 航空機や新幹線の「早割」、スポーツの試合で週末の料金は高めにするなど、同じサービスでも条件に応じて料金設定を変動する「ダイナミックプライシング」は日本でも浸透している。しかし料金設定をオープンにしていない「ビッグデータ殺熟」は根本的に異なる。「お得意さまがばかを見る」ような悪質な商法が法律で規制されることが期待されている。ただ、「ビッグデータ殺熟」を行っていると公式に認めている業者はなく、どこまで実際に歯止めがかかるかが今後のかぎとなる。(c)東方新報/AFPBB News