気温2度という季節外れの寒気にも負けず、まったく新しくなったモーガンでひたすら走り続けたら、暖かな春の日差しと、桜と、富士と、ずっと変わらない伝統的な世界に出会うことができた。
英国マルヴァーンにあるモーガンは、長年2つのモデル・ラインを構築してきた。1つは1936年から続く伝統的な、4輪で4気筒搭載を意味する4/4。もう1つはその派生版で、V6やV8など高出力エンジンも搭載するようになったプラス4、プラス8、ロードスターといったモデルだ。斬新なスタイルのエアロ8や、近年復刻したルーツである3ホイラーもあったが、実はこれらはもうすべて生産を終えている。
モーガンは生まれ変わった。2019年、エアロ8以降蓄積してきたノウハウによる完全新設計のアルミ接着式フレームの2つの新作を公開。それがBMW Z4やGRスープラと共通の3リッター直6/2リッター直4ターボを搭載する“プラス・シックス”と“プラス・フォー(以前と読みは一緒だが、数字が英字表記)”である。ただしスタイリングはモーガンそのもの。バルクヘッドとドア周囲とリアセクションはあいかわらずウッドで、職人が手で組み立てている。
2020年夏に試乗したプラス・シックスの印象は鮮烈だった。1140kgの車体に340psだから恐ろしく速く、あんな古式ゆかしきカタチなのに速度を上げてもノーズがリフトしない。幌を上げればエアコンは効くが、風切り音はものすごく、幌を下ろせば四方からの風に蹂躙される。パワー・ステアリングは軽く正確無比。けれど電子制御デバイスはABSのみで、ブレーキングでしっかり前輪に荷重を掛けないと曲がらない。似合わないが35%扁平の19インチ・タイヤを履きこなし、乗り心地もいい。室内中央にはBMWそのものの8段ATのシフト・ノブが生え、パドルまで付く。操作そのものはイージー。でも見た目も走りも、あちこちからワイルドさが滲み出ていて正直手に余る感じは、確かにかつてのプラス8やロードスターを思い出させるものだった。
ではプラス・フォーはどうか。僕は見て、乗って、心底安堵した。かつての見た目と、軽快な走りと、優雅に陽の光と風を味わえる4/4の味わいが、そこにはあったからだ。
プラス・シックスとの外観の違いはないように見えるが、実は上屋の木製部分が異なり、サイズは3830×1650×1250mmと80mm短く、95mm狭く、30mm低い。分厚い60%扁平の15インチ・タイヤはフェンダーとのバランスがまさに絶妙。室内にはプラス・フォーでしか選べない、ストロークが適切で、丸く手のひらで転がすように操作できる6段MTのシフト・ノブが輝いている(8段ATはオプション)。内外装の仕立てはカスタマイズが可能だが、ナンバー・プレート下のパネルと、ロールケージのように見えるヘッドレスト、そしていかにもBMW的なステアリングのリムは暗めの色にしたいな、と思った。それだけでずっとクラシカルな雰囲気が強まるはずだ。
車体が狭い分、小さなドアを開けて潜り込む室内もプラス・シックスより横方向が少し狭い。フットレストはなく左足の置き場に悩むが、クラッチは軽い。ただ6段MTのギア比はワイドで、パワーバンドが狭かった昔のエンジンを活かすような、積極的なシフトは必要がない。そこは往年の英国スポーツカー的ではなく少々さみしいが、変速に気を使わず、ゆったり走れるともいえる。
とはいえ車重はプラス・シックスよりさらに軽い1070kgで、4気筒ターボの出力も258psもあるから瞬発力は油断ならない。0-100km/h加速は5.2秒と718ケイマンと大差ないのだ。高速巡航時やハンドリングのマナーはプラス・シックスとほぼ同じだが、鼻先が軽くすっときれいに回頭していくし、コーナーからの脱出時もリアタイヤがより落ち着いた印象だ。いわばこれは恐ろしく完成度が高く、ただし古典的な部分をあえて残したドライバーズ・カーなのである。
プラス・シックスはそのワイルドさゆえ、これを乗りこなしてこそ……と思わせるような、いわばモーガンの上級篇だった。いっぽうプラス・フォーの6段MT仕様は、誰もが往年の雰囲気を味わいながら、走りも十分楽しめるという、モーガンの裾野を広げる1台になっていた。
伝統は見事に受け継がれたのだ。僕は心の底から、それがうれしい。
■モーガン・プラス・フォー
駆動方式 フロント縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 3830×1650×1250mm
ホイールベース 2520mm
トレッド(前/後) 1492/1492mm
車両重量(前後重量配分) 1070kg(前軸530kg:後軸540kg)
エンジン形式 水冷直列4気筒DOHCターボ
ボア×ストローク 82.0×94.6mm
最高出力 258ps/5500rpm
最大トルク 35.7kgm/1000-5000rpm
トランスミッション 6段MT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン/コイル
ブレーキ(前後) ベンチレーテッド・ディスク
タイヤ(前後) 205/60R15
車両本体価格 1155万円
文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=阿部昌也
(ENGINE2021年6月号)
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