【4月12日 AFP】カンボジアの旧ポル・ポト(Pol Pot)政権(クメールルージュ、Khmer Rouge)によるジェノサイド(大量虐殺)の犠牲者らの顔写真を、デジタル技術で笑顔に加工した作品をアイルランド人アーティストが発表し、遺族らから激しい非難を浴びている。

 急進的な共産党毛沢東主義勢力だったクメールルージュは1975~79年、カンボジアに恐怖政治を敷いた。この間、飢えや重労働、拷問、大量処刑により推計200万人が命を落としたとされる。

 クメールルージュは、虐殺した多数の人々の顔写真を撮影していた。その中には、高校の校舎を転用した悪名高いトゥールスレン(Tuol Sleng)政治犯収容所(別名S-21)に送られた人々もいる。トゥールスレンでは推計1万5000人が尋問と拷問を受けた後、近くの空き地で処刑された。

 アイルランド人のアーティスト、マット・ロックリー(Matt Loughrey)氏は個人的な古写真彩色プロジェクトの一環で、クメールルージュの虐殺犠牲者の白黒写真を彩色加工。これらの作品が先週末、ロックリー氏のインタビューと共に米メディアサイト「バイス(Vice)」に掲載された。

 ところが、うち何点かの写真で犠牲者の表情を笑顔に加工していたことから、カンボジア国内やソーシャルメディア上で批判が噴出した。

 バイス編集部は、「記事に掲載した復元肖像写真には、彩色を超える加工が施されているとの指摘を受けた。現在、内容を確認しており、さらなる対応も検討している」との注意書きを追加。その後、記事は11日午後に削除されたもようだ。

 AFPはロックリー氏に取材を試みたが、現時点で回答は得られていない。

 トゥールスレン収容所で両親を亡くし、自身も収容され生還したノン・チャン・パル(Norng Chan Phal)さん(52)はAFPに対し、ロックリー氏のプロジェクトは「クメールルージュの被害者に対する侮辱」だと批判。「これらの彩色写真を強く非難する。なぜなら、S-21に収容された人々は皆、決して幸せではなかったからだ」と述べ、「私たちには一度たりとも、笑う機会はなかった」と語った。

 カンボジア文化芸術省は、ロックリー氏が行った写真の加工は「犠牲者の尊厳」とカンボジアの歴史の実態に「深刻な影響を与える」との見解を表明。プロジェクト自体についても、犠牲者の写真を法的に所有・管理するトゥールスレン虐殺博物館(Tuol Sleng Genocide Musuem)の権利を侵害していると指摘した。(c)AFP