【3月5日 AFP】東南アジア・タイの沖合で、ダイバーたちがプラスチックだらけの海に潜り、サンゴに絡まった漁網を切り離している。海洋生物の保護だけではなく、新型コロナウイルスとの闘いをも支えるという新しい取り組みだ。

 羽振りのいいタイの水産業者らが海に放置していく網は「ゴースト(幽霊)ネット」と呼ばれ、危険なプラスチック汚染源の一つだ。こうした網はウミガメを巻き込んだり、繊細なサンゴの着床礁に絡みついたりする。

 放置したままだと「何十年も漂流して、海洋生物が引っ掛かったり、餌として食べてしまったりします」。ロンドンに拠点をおくNPO「環境正義財団(Environmental Justice Foundation)」の活動家、インパット・パックチャイラッチャクン(Ingpat Pakchairatchakul)氏はAFPに語った。

 インパット氏とのインタビューは最近、チョンブリ(Chonburi)県沖合で行われた同NPOの活動中に船上で行われた。船底から27メートル下では、30人余りのダイバーがサンゴにへばりつく漁網などを剥がしていた。

 彼女が参加している「ネットフリー・シーズ(Net Free Seas、網のない海)」というプロジェクトでは、古い漁網を回収し、新しいプラスチック製品に再生している。

 この活動は、新型コロナウイルス感染拡大によって急増しているフェースシールドなど防護具の需要にも対応している。世界でも有数の海洋ごみ大国タイで、海洋生物の保護が商業的に成り立つことを証明する試みでもある。

 地元ではちょうど、海の生き物を脅かすプラスチックに対する怒りが高まってもいた。例えば2年前、衰弱したジュゴンの赤ちゃんが浜辺で保護され、胃に詰まったプラスチック片による感染症がもとで死ぬ出来事があった。

 タイの人々はこのジュゴンを「マリアム(Mariam)」と名付け、数か月間、インターネットの生中継で看護活動を見守っていただけに、その死を悼む声がオンライン上で大きく広がった。

 タイ海洋公園管理局のチャトゥラテープ・コーウィンタウォン(Chaturathep Khowinthawong)局長によると、同国の浜辺では毎年、死んだり傷ついたりした大型の海洋生物が20匹前後見つかる。「そのうち70%以上が、ゴーストネットで負傷し、体に深い傷を負っています」と語る。「いったん網にかかると、命が助かる可能性は10%以下です」