【10月31日 AFP】村の長老は湖面をのぞき込みながら、自らの農場の位置を正確に説明できずにいた。生まれてこのかた暮らしてきた農場は、今やヒヤシンスとメスキートの茂みの下に沈んでいる。今年、記録的に水位が上昇したケニアのバリンゴ湖(Lake Baringo)によって、他のものもろとものみ込まれてしまったのだ。

 水に漬かったわらの塊が、かろうじてその場所を示していた。よどんだ水から突き出たわらぶき屋根の頂だけが、母屋の名残だった。あちこちの村や学校、診療所やリゾート地など、すべては沈んでしまった。

「60年の人生で、こんなのは見たことも経験したこともない」とリチャード・リチャン・レクテレール(Richard Lichan Lekuterer)さんは語った。目線の高さには、かつて高くそびえていたアカシアの木々の先端が水面から突き出し、景観は面影もないほど一変してしまった。

 バリンゴ湖をはじめ、ケニアのリフトバレー(Rift Valley)にある大きな湖は、何か月も異常降雨に見舞われ、少なくとも過去半世紀になかったほど水位が上昇。今年だけで数メートル上昇した湖もある。科学者らは気候変動との関連を指摘している。

 湖水は容赦なく広がり続け、住民数万人は家屋や牧草地、商店などを置き去りにして高台へ逃れている。

 バリンゴ湖の湖面は2011年以降、約70キロ平方メートル拡大しているが、今年の水位上昇は急激だった。

 200キロ南にあるナイバシャ湖(Lake Naivasha)でもバリンゴ湖と同様、約10年前から水位がゆっくりと上昇していたが、長く水位が低下していた後の回復だったため、ほとんど懸念を呼び起こさなかった。だが水位上昇は今年4月に突然加速し、すぐに1960年代に測定された直近の歴史的水位を上回った。ナイバシャ湖は現在、20世紀初期に記録された最高レベルの水位に近づいている。

 政府機関の科学者らは水量の極端な増加について、考えられる原因を模索中だ。高地の集水地における森林伐採によってシルト(沈泥)が下流に押し流され、湖の貯水能力が低下している可能性も検討されている。他にも地震活動や地下帯水層からの湧出量の増加の影響など、それほど決定的でない説がある。

 インド洋の平均を上回る気温はここ数年連続して、異常かつ不規則な降雨を発生させ、湖に流れ込む河川や断崖急斜面に季節外れの豪雨を頻繁にもたらしている。

 ケニア水資源管理庁のトップで地質学者のモハメド・シュリー(Mohamed Shurie)氏は、「状況は変わった。(中略)その影響は50年前よりもっと顕著だ」と語った。(c)AFP/Nick Perry