【8月31日 AFP】野生動物の観察を楽しむエコツアー船が航行するその向こうに、船舶燃料をたっぷり積んだ見上げるほど巨大な給油船がいかりを下ろし、発電機が大きなうなり声を上げている──南アフリカ・アルゴア湾(Algoa Bay)の光景だ。目と鼻の先には、絶滅危惧種に指定されているアフリカペンギン(ケープペンギン)の世界最大の繁殖地がある。

 欧州とアジアを結ぶ航路の半ばにあり、大型船の入れる水深の深い港を備えたアルゴア湾は、南ア初の海上給油基地を設けるのにうってつけだった。2016年から貨物船を中心に多くの船舶が立ち寄っては、船から船へ(STS)の燃料補給(バンカリング)を行っている。湾内での接舷給油なら、港の使用料と寄港に要する時間を節約しつつ、より多くの貨物を運べる。

 だが、環境保護活動家やエコツアー会社、自然愛好家らは、外国人観光客を魅了してきた世界有数の海洋生物の宝庫への長期的な影響に、危機感を募らせている。バンカリング拠点が餌場や繁殖地に近すぎるため、生態系が破壊され、動物たちを燃料漏れの危険にさらしているというのだ。

 その懸念は今月初め、インド洋の島国モーリシャス沖で座礁した日本のばら積み貨物船「わかしお(MV Wakashio)」から燃料が流出し、海洋自然保護区の手付かずの海岸を汚染した大惨事によって浮き彫りとなった。

 アルゴア湾では3社が給油ライセンスを有し、関係者によると、大型の燃料貯蔵タンカー1隻と最大7隻の給油用タンカー(バンカーバージ)を運用している。貯蔵タンカーの積載容量は10万トン。反対派は、大規模な流出事故につながる恐れを指摘している。

 実際、2017年と19年に小規模な燃料漏れが発生した際には、油まみれのペンギンが何十羽も保護された。

 環境汚染に加え、騒音や船舶の往来の増加が海洋生物に与える影響についても、専門家による研究が行われている。特に心配されるのは、バンカリングが引き起こす振動により、音の反響を頼りに餌を捕食している海洋生物がアルゴア湾に近づけなくなってしまうのではないかという点だ。