【8月15日 AFP】パキスタン政府は、インドのジャム・カシミール(Jammu and Kashmir)州が自治権を剥奪されてから1年を経た先週、インド側のカシミール地方で暮らすイスラム教徒らの窮状を訴え、国際的な注目を集めた。だがその一方で、同じく苦境に置かれている中国のイスラム系少数民族ウイグル人については沈黙を続け、際立って対照的な姿勢を見せている。

 パキスタンのイムラン・カーン(Imran Khan)首相は、世界中のイスラム教徒らの守護者を自認し、イスラム教徒が人口の多数を占める係争地カシミール地方について繰り返し声を張り上げている。ナレンドラ・モディ(Narendra Modi)印首相をアドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)になぞらえ、ジェノサイド(大量虐殺)を取り仕切っていると批判しさえした。

 カーン首相は、インドによる同州の自治権剥奪から1年を経た今月5日、「インドの違法行為やカシミールの人々への抑圧を、われわれもカシミール人たちも決して容認しない」と述べた。

 だが、隣国である中国の新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)において、ウイグル人に対し過酷な弾圧が加えられている証拠が次々に明るみに出ても、カーン首相は長年の同盟国である中国の内政問題に首を突っ込むことを拒んでいる。

 これについて、コラムニストのフマ・ユスフ(Huma Yusuf)氏はパキスタンの英字紙ドーン(Dawn)への寄稿で、「ウイグル人について口を閉ざすことは、カシミール問題においてもパキスタンの信用を失わせることになる」と指摘。

「カーン氏は以前、二つの問題は規模が違うと主張したが、カシミールに言及する際にパキスタンをイスラム教徒と人権の真の闘士と認識してもらいたいのならば、こうした主張では不十分だ」と主張した。

 パキスタンとインドは、1947年に英国から独立して以来、カシミール地方の領有権を互いに主張して対立を続け、2度の全面的な戦争を招くことになった。

 中国はこの間、パキスタンへの経済支援を着々と実施し、インフラ整備事業である「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」の一環として500億ドル(約5兆3000億円)超を投資。

 これでパキスタンのインフラや電力事情、また新たに改修された港湾都市グワダル(Gwadar)の港と中国・新疆とを結ぶ交通網が改善された。

 インドとの間で頻繁な小競り合いを繰り広げるパキスタンに対して、中国は外交面において確固として支援を提供。

 パキスタンの元駐米大使で、現在は米シンクタンク「ハドソン研究所(Hudson Institute)」の上級研究員を務めるフセイン・ハッカニ(Husain Haqqani)氏は、「インドへの対抗上、パキスタンは中国を筆頭格の支援者とみなしており、中国政府との関係に水を差す発言や行動は一切望んでいない」とAFPに語った。

 カーン首相は、ウイグル人について質問された際、その問題についてしっかりと把握していないとしたり、中国との不可欠な関係を擁護したりして揺れ動いている。

 今年1月にスイス・ダボス(Davos)で開催された世界経済フォーラム(World Economic Forum)でカーン首相は、「われわれがどん底にあった時、中国が助けてくれた。中国政府には本当に感謝している。だからわれわれは、中国との間のいかなる問題も、非公開で対応に当たることに決めた」と述べている。

 専門家らは、カーン首相や将来の指導者らが、こうした方針を変える可能性は低いとの見解を示す。

 米シンクタンク・ブルッキングス研究所(Brookings Institution)のフェローであるマディハ・アフザル(Madiha Afzal)氏は、「パキスタン国民は、ウイグル問題をあまり認識しておらず、強い思い入れもないため、偽善的だという批判を同国政府はかわしている」と指摘。

「一方でカシミールについては、多くのパキスタン人にとって理屈抜きに重要な問題で、インドとの対立における核心であり、政府が声を張り上げるのを国民は当然のように思っている」と説明した。(c)AFP