【8月6日 AFP】かつて自然界に君臨していたと考えられている恐竜が、現代に生きる人間と同じように「がん」を患っていたとする論文が、医学誌「ランセット・オンコロジー(Lancet Oncology)」8月号に発表された。化石に悪性腫瘍(しゅよう)の痕跡を初めて確認したという。

 カナダのアルバータ(Alberta)州で1989年に発掘されたセントロサウルスの脚の骨の化石には、著しい変形がみられたが、古生物学者らの当初の見解に基づきこれまで骨折が治癒した痕だと考えられていた。

 だが、このほど顕微鏡と人間のがん診断に用いる高解像度CTスキャンを用いて改めて骨を検査したところ、変形した部位は悪性腫瘍だったことが分かった。

 カナダ・マクマスター大学(McMaster University)のマーク・クラウザー(Mark Crowther)医学部長と、トロントにあるロイヤルオンタリオ博物館(Royal Ontario Museum)の学芸員デービッド・エバンズ(David Evans)氏らの研究チームは、アルバータ州ドラムヘラー(Drumheller)のロイヤル・ティレル古生物学博物館(Royal Tyrrell Museum of Palaeontology)が所蔵する変形した骨の標本数百個を調べ、リンゴほどの大きさの腫瘍がある骨を発見した。

 恐竜ファンでもあるクラウザー氏によると、見つかった腫瘍は「不思議なことに、顕微鏡で見るとヒトの骨肉腫によく似ていた」という。

「この種のがんが数千万年も前に存在し、今も存在しているというのは興味深い」とAFPに語ったクラウザー氏は、がんの多くは軟部組織に生じるため化石として残りにくいと指摘した。

 セントロサウルスは7600万~7700万年前に生息していた草食の角竜類。見つかった骨肉腫は転移しており、骨の持ち主は足を引きずっていた可能性があるという。

 だが、この個体の死因は末期がんでも、弱って動きが鈍り天敵の餌食になったわけでもないとみられる。というのも、この骨は100頭以上のセントロサウルスの群れの化石と共に見つかっているからだ。群れは洪水などの突発的な災害により全頭が同時に死んだと考えられ、その大惨事が起きるまで、足の不自由なこの個体は群れの中で守られ、生き永らえていた可能性が高いという。

 クラウザー氏は、骨肉腫は骨の成長が早い若年層に発症しやすいことから、非常に早く大きく成長する恐竜の発症リスクは高かったのではないかと述べている。(c)AFP/Michel COMTE