毎年、数多くの新作時計が発表される中、常に注目を浴びるのが歴史的名作の復刻モデルだ。今年発表された新作においても、魅力的な復刻モデルが続々と登場している。
そんな人気の復刻モデルだが、一口に「復刻」といっても様々な腕時計が存在する。例えば古いものだと、19世紀に誕生したポケットウォッチ(懐中時計)のダイアルや表示機能を再現したモデルがあるかと思えば、大戦中のパイロットウォッチやモータースポーツで活躍したクロノグラフに、近いところでは1970年代のデジタルウォッチまで。モチーフとなるオリジナルモデルは、時代もタイプも実に幅広いのだ。
それだけに熱心な時計ファンはもちろん、オリジナルモデルの存在を知らない人も、今も色褪せないデザインに魅了され、その人気は高まるばかり。もはやトレンドを超え、ひとつのジャンルを確立しているといっても過言ではないだろう。
ただ、その「復刻」においてここ数年、時計各社が注力しているのが、オリジナルに忠実な外装だ。ケースのサイズやデザイン、仕上げなどまさに瓜二つ。ただし、素材や加工精度は最新のものだけに、質感はオリジナルを凌駕する素晴らしさだ。加えて、中の機械(ムーブメント)においては、脱進機にシリコンを用いるなどして、パワーリザーブを伸ばしたり、耐磁性や精度を高めた最新のものを搭載しているのだから実用性も抜群だ。
ヴィンテージの雰囲気を漂わせた優れたデザインに高い質感と実用性。これらを併せ持つのだから、人気があるのも当然だといえよう。
今回取り上げた注目の復刻モデルにおいて、ケースやデザインにおけるオリジナル再現度の高さはさることながら印象的なのがブレスレットやストラップへのこだわりだ。ゼニスの「エル・プリメロA384 リバイバル」は、なによりもムーブメントがエル・プリメロという傑作であることが大前提ではあるが、ブレスレットが素晴らしいのだ。中央にコマの“抜け”を設けたデザインが特徴的なオリジナルの「ラダー」ブレスレットを忠実に再現。発表当時のトレンドは時代を超えてスタイリッシュさを手元にもたらすだけでなく、最新技術が生み出した着け心地とその質感を体験すれば虜になること間違いないだろう。オリジナルを知らずともブレスレットに魅せられて購入する人も少なくないはずだ。
そして、セイコーの「プロスペックス セイコーダイバーズ 55周年記念限定モデル/SBEX011」も、デザインに加えて毎時36000振動というオリジナルと同じハイビートのムーブメントを搭載していることが大きな魅力だが、ラバーストラップも見逃せない。当時のデザインをしっかり受け継いでおり、ファンにとっては「この仕様だからこそ、完全な復刻だ」と納得の仕上がりなのだ。
また、昨年に続いてデザインはもちろん、あえて手巻きのムーブメントを採用するなど徹底してオリジナルの再現を追求したブライトリング。そして、ハミルトンとしては初のデジタルモデルの復刻は、どちらもブランドの個性とこだわりを色濃く反映した現代の傑作の誕生であると同時に新たな復刻トレンドの可能性を感じさせる。
文=前田清輝(ENGINE編集部シニア・エディター)
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