【5月21日 AFP】「右翼はクロロキンを飲む」──ブラジルのジャイル・ボルソナロ(Jair Bolsonaro)大統領は、新型コロナウイルスに感染した人への抗マラリア薬の投与に関する議論を政治がいかに完全に乗っ取ってしまったのかを簡潔に要約してみせた。

 この発言が飛び出したのは19日夕のこと。極右のボルソナロ氏は、「右翼はクロロキンを飲む。左翼はトゥバイナ(Tubaina)を飲む」と述べた。トゥバイナは安いソフトドリンクで、ポルトガル語でクロロキンを意味する「クロロキナ」という単語と韻を踏んでいる。

 その翌日、ブラジル政府は、その安全性と効果に疑問が持たれているにもかかわらず、抗マラリア薬のクロロキンとヒドロキシクロロキンを軽症者も含めて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に広範に使用することを推奨した。

「熱帯のトランプ(Tropical Trump)」とも呼ばれるボルソナロ氏は、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領と同じようにクロロキンとヒドロキシクロロキンに傾倒している。自分の考えと合わない科学的証拠を顧みない傾向もトランプ氏と似ている。

 中国とフランスで行われた予備的な研究──そしておそらくは、経済に痛みを強いるロックダウン(都市封鎖)に代わる新型コロナウイルス拡大抑制策を望む並々ならぬ気持ち──に基づきトランプ、ボルソナロ両大統領は、科学者らがさらなる研究が必要だと強く主張しているにもかかわらず、クロロキンとヒドロキシクロロキンを新型コロナウイルス感染症の特効薬になる可能性があるとほめそやしてきた。

 トランプ氏は18日、予防のためヒドロキシクロロキンを毎日服用していることを明らかにした。しかしボルソナロ氏は、そのトランプ氏さえできていないことをやってのけた。

 ブラジルの保健当局は、クロロキンとヒドロキシクロロキンの使用を臨床試験(治験)や重症者の治療だけではなく、発症したばかりの人を含む感染者全員に広げることを推奨する新ガイドラインを発表。クロロキンあるいはヒドロキシクロロキンを抗生物質のアジスロマイシンと合わせて投与することをブラジルの公共医療機関の医師に勧め、患者は心臓や肝臓、網膜への副作用や、死亡する恐れさえあると説明されたという書類への署名が求められる。投薬の最終的な判断は医師と患者に委ねられる。

 ボルソナロ氏は20日、ツイッター(Twitter)に、「科学的証拠はまだないが、(クロロキンは)ブラジルと世界で様子を見ながら使用されている。われわれは戦争をしている。『闘いさえしない恥は敗北より悪い』。ブラジルに神のご加護を」と書き込んだ。(c)AFP/Louis GENOT