【5月17日 AFP】ウラジスラフ・ザイツェフ(Vladislav Zaitsev)さん(28)は外科用のメスを手に持ち、クライアントの親指と人さし指の間の皮膚のひだを切開して小さなガラスのシリンダーを押し込んだ。

 シリンダーの中身はマイクロチップだ。チップを体内に埋め込んだのは、プログラマーとして働くアレクセイ・ラウトキン(Alexei Rautkin)さん(24)。マイクロチップを移植した理由については、オフィスのドアをカードキーなしで開けられるようにするためだと語る。

「便利というのが主な理由だ。あとはチップを埋め込んでいる人が他にいないというのもある」とフードをかぶったラウトキンさんはコメントした。

「バイオハッキング」に関心を寄せているのはラウトキンさんやザイツェフさんだけではない。実験的なテクノロジーや自らの体に対するDIY的な管理を通じて、自身を「アップグレード」しようという考え方は、ロシアだけにとどまらず、世界的に広がっている。こうした流れは、2010年の初めに米シリコンバレー(Silicon Valley)で始まった。

 一部の人々にとってチップの皮下移植は最先端のライフスタイルにすぎない。しかし、その一方では、健康状態の厳しい監視と大量のサプリメント摂取、極限的エクササイズを通じて寿命の延長を目指す人もいる。そのようなバイオハッキングを好むのは主に裕福なロシア人だ。

 ロシアにおけるバイオハッカーの正確な数は分からない。ただ、その運動が広がっていることは確かで、ソーシャルメディアでのフォーラムや会議の開催、関連する事業の立ち上げが近年続いている。

 医学部を中退したザイツェフさんは、2015年のある行為をきっかけにロシア全土で注目されるようになった。モスクワ地下鉄のカードからチップを取り出して加工し、それをシリコンで包んで自らの手の甲に挿入したのだ。

 円形のチップは、英国の1ペニー硬貨とほぼ同じ大きさで、誰が見ても何かが埋め込まれているのがはっきりと分かる。チップは自身の銀行口座情報に書き換えたものの、この銀行は既に閉鎖されてしまったため、現在では利用する機会がなくなってしまったという。

 チップの他にも、指先には磁石が入っているが、これらは余興として手品を披露する際に使う程度だとザイツェフさんは話した。