【3月10日 AFP】日本政府が「復興五輪(Recovery Olympics)」と呼ぶ東京五輪の聖火リレーは今月26日、福島県からスタートする。だが、地元の誰もが声援を送っているわけではない。

 2011年に起きた東日本大震災の死者・行方不明者は1万8500人に上った。福島第1原子力発電所は地震による津波に見舞われ、旧ソ連のチェルノブイリ(Chernobyl、現ウクライナ)以来最悪の原発事故を引き起こした。福島県は大きな被害を受け、今も数万人が避難生活を続けるなど震災の影響が色濃く残っている。

 聖火リレーの出発地となるのは、福島県楢葉町にあるサッカーのナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ(J-Village)」だ。Jヴィレッジは原発事故の対応拠点として利用され、昨年ようやく一般向けに再開された。

 先月、このJヴィレッジ前で行われた抗議デモで、「福島はオリンピックどごろでねえ」と書かれた横断幕が掲げられた。

 原発事故の被災者団体が結成した全国組織「原発事故被害者団体連絡会(略称:ひだんれん、Hidanren)」の幹事で自身も避難者の村田弘(Hiromu Murata)さんは「本来、オリンピックのおかげで福島県が世界にアピールする、喜ぶべきことだったはずだけど、とてもそんなふうにならない。正直いうとわれわれはまだ苦しんでいる」と語った。

 福島第1原発の事故では、広範囲にわたり住民が避難を余儀なくされ、表土の剥ぎ取りなどを含めた大規模な除染作業が実施された。最近では同原発が位置する双葉町の一部地域で避難指示が解除されるなど、次第に避難指示が取り下げられているが、公式統計によると今も少なくとも4万1000人が帰還していない。支援者らは、帰還していない人の数はさらに多いとみている。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(Tokyo Organising Committee of the Olympic and Paralympic Games)は2月、福島県知事から要望があったとして、聖火リレーのルートに同県双葉町を追加すると発表した。聖火は今月20日、宮城県に到着する。だが、少なくとも2022年より前に住民が帰還する見込みはなく、水道などの基本インフラもまだ整っていない。

 福島県出身でひだんれん共同代表の武藤類子(Ruiko Muto)さん(66)は、五輪の焦点がずれており、Jヴィレッジが聖火リレーに使われることに怒りを覚えるという。

 武藤さんは「私たち福島県民にとっては、ここを使ってオリンピックの聖火リレーを始めるということは原発事故というものを本当になくしてしまう、終わらせてしまうという意味に取れる。ここから聖火リレーが走るということは、私たちにとっては屈辱的なことでもある」とAFPに述べた。さらに汚染土壌や汚染水の問題、避難者たちの問題が解決していないままで、五輪どころではない状況だと指摘。「心から楽しめる人はそれほど多くないと思う」と語った。

 だが、こうした考えを皆が共有しているわけではない。福島県知事の内堀雅雄(Masao Uchibori)氏は報道陣に対し、Jヴィレッジが今も続く福島復興のシンボルとしてふさわしいと説明している。内堀氏は「今回の復興五輪を通じて国内と国外の方々から新しいパワー、エネルギーをいただいて、これから未来に向かって復興を進めるための力をいただければと期待している」と述べた。

 しかし、ひだんれん幹事の一人、熊本美彌子(Miyako Kumamoto)さんは、政府が避難指示を取り下げたことで、住宅支援を削減される避難者らが苦境に立たされていると指摘。復興五輪の考えについて否定した。

 支援者らは、多くの人が今も汚染を恐れて帰還したがらない状況であるにもかかわらず、日本政府は震災が終わったと宣言しようとしていると非難している。

 熊本さんによると、震災当初に無償提供された仮設・借り上げ住宅に住む避難者らは、家賃の支払いを強いられるようになり、その家賃も徐々に値上がりし、最終的には退去を求められているという。

 熊本さんは、政府は東京五輪に120億ドル(約1兆2500億円)以上を費やすのに、なぜ避難者支援を削減するのかと疑問を投げ掛け、福島は五輪を祝える場所ではないと語った。

 映像は2月29日撮影。(c)AFP/Karyn NISHIMURA