【3月1日 AFP】やせ衰えて立つこともできず、うつろなまなざしで宙を見つめる20歳の雄ライオン「ジュピター(Jupiter)」は、命の瀬戸際にあった。ついに危篤状態になったとき、コロンビア当局が動いた。

 ジュピターの健康状態を完全回復させる試みの先頭に立つのは、サーカスから生後3か月だったジュピターを救い出し「息子」として育ててきたアナ・フリア・トーレス(Ana Julia Torres)さんだ。

 トーレスさんはコロンビア・カリ(Cali)で30年以上にわたり、ビラ・ロレーナ動物保護センター(Villa Lorena, Shelter and Sanctuary)を運営してきた。引き取った動物の大半に、虐待や不当な扱いを受けてきた痕跡が見られた。

 だが、2019年4月、ジュピターは環境当局に没収されてしまう。必要書類の不備が理由だった。トーレスさんは、数百匹もの野生動物を不当に扱ったとのそしりを受けた。

 トーレスさんによると、ジュピターがコルドバ(Cordoba)州にあるロスカイマネス(Los Caimanes)動物園に移送された時、体重は250キロあったという。今は、たった90キロに減ってしまった。

 ロスカイマネス動物園が閉園すると、ジュピターは近くの別の施設へ移された。だが「明らかに、ジュピターは閉じ込められていた。それから体重が減り始めた」のだと語るトーレスさん。「わが子」が助けを求めていると母親の直感で感じたという。「ジュピターは数日間、食べていない。動物が衰弱しているときのしるしです」

 目に焼き付くようなジュピターの写真がソーシャルメディア上で拡散すると、救出運動が立ち上げられた。

 コロンビアのカルロス・オルメス・トルヒーヨ(Carlos Holmes Trujillo)国防相は、空軍機でジュピターを元いた保護センターへ送り届けると表明。カリのホルヘ・イバン・オスピナ(Jorge Ivan Ospina)市長は、ジュピターは「移送されるべきではなかったし、不当な扱いも受けていなかった」として、「適切な」飼育舎を用意すると述べた。検察と警察が、移送先での動物虐待について刑事捜査を行っている。

「ジュピターと私が互いに抱く愛情が、この子を救うでしょう」とトーレスさんは語った。「これは母子の絆なのです」

 映像は2月27日撮影。(c)AFP