【2月10日 AFP】シリア北部イドリブ(Idlib)県で、政府軍とロシア軍の空爆を逃れたシリア人女性ゴスーンさん(38)の一家は、何日も車でさまよっている。長時間の運転でへとへとだが、もはやどこへ行けばいいのかも分からない。

「2晩連続で車中泊だった。今夜もそうなりそうだ」とゴスーンさん。路肩に止めた車に寄りかかった彼女の隣で、夫がまだ赤ん坊の娘をあやしている。幼い息子は冬物のコートを着せられ、ビスケットの箱をつかんでいた。

 ロシアに支援されたシリア政府軍は2か月前から、反体制派の最後の拠点であるイドリブ県への攻勢を強化。人口約300万人の県内では、58万人を超える住民が自宅を追われ、避難生活を余儀なくされている。

 人々は家財道具を車に積み、家族総出で北へと逃げつつ、冬を乗り越えられる避難場所を探している。だが、9年に及ぶシリア内戦で難民が殺到したトルコは国境を封鎖しており、比較的安全とされる国境地帯で寒さをしのぐ場所を見つけるのは困難だ。

 ゴスーンさんは「避難民キャンプに行ったが、もう空きがなかった」「貸家も探したが、家賃が高すぎた」と語った。

 現地のAFP記者によれば、イドリブ県北部の農村部では最近の避難民の大量流入を受け、アパート1部屋の1か月当たりの賃料が約150ドル(約1万6000円)相当から最高350ドル(約3万8000円)相当まで高騰した。しかも、借りられる部屋はほんのわずかしかない。

■家賃高騰で追い出される家族も

 ゴスーンさん一家が取材に応じたマーラトミスリン(Maaret Misrin)郊外には、新設された避難民キャンプがあるが、新しいテントは既にいっぱいだ。定員350家族のこのキャンプには現在、800家族がひしめき合い、ぬかるんだ地面に直接じゅうたんやマットレスを敷いて暮らしている。人々の流入は今もとめどなく、記者は、テントの数が足りずに木の下で2晩を過ごした家族にも出会った。

 一方、家賃高騰の影響でイドリブ県北部の自宅を手放さざるを得なかった家族もいる。アラーさん(38)一家は、前線からたった数キロしか離れていない県都イドリブの市街地に引っ越してきた。

 妻と5人の子ども、両親、兄弟と暮らす新居は、建設途中で放置され基礎工事が終わっただけのコンクリートの建物で、窓もドアもない。それでも、アラーさんは「他よりましだ。少なくとも屋根がある」と話した。

 ただ、迫りくるイドリブ市への攻撃にはおびえている。「頭上の屋根が吹き飛ばされるなら、泥にまみれた生活のほうがいいかもしれない」とアラーさん。「神よ守りたまえ」と祈りつつ、「私たちはもう疲れてしまった」と語った。(c)AFP/Aaref Watad