【2月9日 AFP】世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルスの名称について、流行が始まった中国・湖北(Hubei)省武漢(Wuhan)、そして中国国民に汚名を着せることがないよう、慎重に検討を進めている。

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 国際的な公衆衛生上の緊急事態を宣言したWHOは、暫定的に公式名称を「2019-nCoV」としている。

 2019はこのウイルスが最初に特定された2019年を、「nCoV」はこのウイルスが属するコロナウイルスの新型を示している。

 WHOの新興感染症対策部門を率いるマリア・バンケルコフ(Maria Van Kerkhove)氏は7日、同機関の執行理事会に、「名称によってどの場所も連想されないようにするため、暫定の名称を付けることが重要だと考えた」と説明。「多くのメディア報道が、今もなお武漢や中国を使って呼んでいるのを皆が目にしていると思う。われわれはしっかりと汚名を着せないようにしたい」と述べた。

 名称に関しては数日間で最終決定されるとみられ、WHOおよび国際ウイルス分類委員会(ICTV)のコロナウイルスに関する専門家の手に委ねられている。

 だが、より具体的な名称を用いることは危険をはらんでいる。

 2015年に発表された一連の指針でWHOは、最初に確認された場所の名前が用いられたことで、今や一般的なイメージでは病名と地名が不可抗力的に結び付いてしまったエボラ(Ebola)熱やジカ(Zika)熱の例があるように、地名を使用しないよう勧告している。

 WHOの感染症専門家であるシルビー・ブリアン(Sylvie Briand)氏は先週、地名の使用は「不必要な重荷」を生んでしまうと指摘している。

 また「中東呼吸器症候群(MERS)」や「スペイン風邪」といったさらに一般的な呼称も、関連する地域全体や民族グループに汚名を着せかねないために避けるべきとされる。

 WHO健康危機管理プログラム(Health Emergencies Programme)のマイケル・ライアン(Michael Ryan)氏は「この病気に関連付けられた汚名が着せられないように期するのはわれわれ全員の責任であり、民族に基づいた個々人に対して不必要かつ無用な人物像を描いてしまうことは、全くもって全面的に容認できない」と語った。

 またWHOは、動物の種名を使用することも、よく豚インフルエンザと言及されるH1N1型インフルエンザのような混乱を生むと指摘。

 この病気は豚よりも人間によって拡大したにもかかわらず、養豚業界に大きな影響を与えてしまったという。

 通常は病気を特定した科学者の氏名が用いられた人名の他、「未知」や「致死的」といった「過度の恐怖をあおり立てる用語」も禁止された。

 この指針についてWHOは、「ある病名が特定の宗教または民族グループのメンバーに対する反感を招き、渡航や商取引において不当な障壁を生み出したり、食用動物の不必要な殺処分を引き起こしているのを目にしてきた」と述べている。

 WHOは代わりに、説明的かつ分かっていれば原因となる病原体を含み、短く発音しやすい名称を推奨している。

 ブリアン氏は「われわれはできる限り中立的で、できる限り便利なものとなるよう本当に努めている。なぜなら世界のどこでも同じように敵に対処しようとするなら、同じ名前を付ける必要がある」と語った。(c)AFP/Dario THUBURN