【2月8日 AFP】フランスの16歳の少女が、ソーシャルメディア上でイスラム教に対する過激な侮辱発言を行ったところ、多数の殺害脅迫が届き、身の安全への懸念から通学できなくなっている。これにより同国では、言論の自由をめぐる議論が再燃している。

 現地メディアが姓を伏せ、「ミラ」という名前だけで報じているこの少女は先月インスタグラム(Instagram)で、イスラム教は「くそみたいな宗教」などと発言していた。

 3日、テレビ番組に出演したミラさんは自身の発言を「後悔していない」と語り、「冒涜(ぼうとく)する権利」を主張した。

 翌4日、クリストフ・カスタネール(Christophe Castaner)内相は、ミラさんとその家族が警察の保護下に置かれていると発表した。

 フランスでは5年前、風刺週刊紙シャルリー・エブド(Charlie Hebdo)がイスラム教の預言者ムハンマド(Prophet Mohammed)の風刺画を掲載したところ、イスラム過激派の武装集団によって風刺画家らが銃撃を受け、死亡する事件が起きている。

 ニコル・ベルべ(Nicole Belloubet)法相は、ミラさんに対する殺害脅迫は「民主主義において容認できない」ものだと述べる一方で、ミラさんのイスラム教に関する発言は「明らかに信仰の自由の侵害」に当たる内容だったと指摘した。

 騒動のきっかけとなったのは、ミラさんによる先月18日のインスタグラム投稿だ。短髪を紫色に染めた印象的な容姿のミラさんは、青い目で鋭くカメラを見つめながら、自分でメークする様子を撮影してその動画を生配信していた。

 3日のテレビ出演でその動画配信を振り返ったミラさんによると、視聴していた男性1人から「かわいいね、セクシーだよ、何歳?」などとしつこく絡まれたという。

 ミラさんが、自分は同性愛者であり、「黒人とアラブ系」は好みではないと言うと、視聴者らから侮辱や脅迫的な発言が押し寄せた。

 そこでミラさんはカメラを正面から見据え、「コーラン(の教え)は憎しみの宗教だ、その中には憎しみしかない。イスラム教はくそだ、あなたたちの宗教はくそだ」とまくしたて、さらに過激な言葉で「あなたたちの神」をののしった。これが今や有名になってしまったミラさんの問題発言だ。

■「冒涜する権利」

 この動画が広く拡散した結果、ミラさんの元には殺害やレイプの予告を含む脅迫が相次いで届いた。ミラさんの学校を管轄する地域の教育委員会は、ミラさんの身を案じ、登校せず自宅で待機するよう指示。2週間たった今も、ミラさんは家にこもっている。

 仏ムスリム評議会(CFCM)の幹部、アブダラ・ゼクリ(Abdallah Zekri)氏は現地ラジオ局に対し、「自分でまいた種だ」「(脅迫を招いたのは)自業自得だ」とミラさんを厳しく批判した。

 ただこうしたコメントに対し、CFCMのモハメド・ムサウイ(Mohammed Moussaoui)議長は「殺害脅迫を正当化するものなど何もない」と述べて、懸念を表明した。

 パリ政治学院(Sciences Po)のドニ・ラコルヌ(Denis Lacorne)研究員は、ミラさんの動画をめぐる事態は、フランスにおける言論の自由と寛容の境界に関わる問題だと指摘。

「心配なのは、冒涜が犯罪とみなされる可能性ではない。冒涜する権利は、真の権利だ。自己検閲のリスクの方が心配だ」とAFPに語った。

 テレビ出演したミラさんは、自分の発言によって「傷ついた」かもしれない人々に対して「ちょっと」は謝ると述べたが、自分には率直に意見を述べるあらゆる権利があると主張した。

 そして「人を標的にするつもりは全くなかった。冒涜の言葉を言いたいと思っただけ。宗教について話したかった、自分が思うことを言いたかった」と語った。(c)AFP/Clare BYRNE and Maria Elena BUCHELI