【1月31日 AFP】中国で新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以来、フランスの中国系社会では、街中やソーシャルメディア上で人種差別(レイシズム)的な言葉を浴びせられたと訴える声が相次いでいる。イタリアの中国系社会の著名人らも、同胞に向けられた「潜在的人種差別」について警告している。

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 新型ウイルスの感染者が複数確認された仏パリでは、今週末にアジア人街で予定されていた春節(旧正月、Lunar New Year)のパレードが延期された。30日の主催者発表によると「衛生上の理由」から2~3か月延期されるという。

 しかし、パレードを主催する在仏中国人協会(Association of Chinese People Living in France)のサシャ・リンロン(Sacha Lin-Jung)氏によると、延期は衛生上の理由からだけではなく「侮辱によってぶち壊しにされないため」でもあったという。

「外国人嫌悪が入り交じった集団ヒステリーがあり、フランスのアジア系住民に対する人種差別発言に歯止めがきかなくなっている。まるでアジア系住民全員が保菌者のような言われ方で、近寄るなと言わんばかりだ」(リンロン氏)

 現地紙クーリエ・ピカール(Courrier Picard)は26日、日曜版の1面の見出しに「黄色人種警報」と付け、謝罪に追い込まれた。

 ソーシャルメディア上でもたくさんの証言が、リンロン氏の言葉を裏付けている。「エロディー(Elodie)」とだけ名乗る女性はAFPに対し、25日の街角で見た光景を語った。「買い物をしていたら何メートルか先で、高齢カップルがアジア系レジ係の接客を拒否し、母国に帰れと言い放った。レジ係の女性はショックで泣きだした」

 アジア系の人々に対するこうした言動を非難するため、フランス国内のツイッター(Twiter)上にはハッシュタグ「#JeNeSuisPasUnVirus(私はウイルスじゃない)」が登場し、トレンド入りした。

 在仏中国人の若者たちの団体、法国中国青年協会のラエティティア・チ(Laetitia Chhiv)氏は「中国人でなくともアジア人というだけで、非礼な扱いまたは人種差別的な行為を受けたという証言がたくさん舞い込んでいる。彼らは中国人と一緒くたに扱われ、しかもそのままウイルスと同一視されている」と訴えた。

 新型ウイルスの感染拡大以降、イタリアでも中国人に対するいじめや嫌がらせ、差別が相次いで報じられている。

 日刊紙スタンパ(La Stampa)によると、ミラノ(Milan)の中国系住民約3万人を代弁することが多いイタリア商業連盟(Confcommercio)の会員フランチェスコ・ウー(Francesco Wu)氏は「極めて不愉快でばかばかしく、腹立たしいことだ」と憤っている。

 イタリアでは、ベネチア(Venice)で中国人旅行者らがつばを吐きかけられたり、トリノ(Turin)に住むある一家がウイルス感染者だと責め立てられたり、ミラノで母親らがイタリア人の子どもを中国系の同級生らに近づけないようソーシャルメディアで呼び掛けたり、といった人種差別が報じられている。

 ウー氏は、「全く不当だし、子どもが巻き込まれているだけにいっそうひどい。無知と潜在的人種差別とが入り交じっている」と非難した。(c)AFP