【1月17日 AFP】米スポーツ用品大手のナイキ(Nike)の厚底シューズ「ヴェイパーフライ(Vaporfly)」シリーズが、陸上選手に不公平なアドバンテージをもたらしているとされる問題で、ワールドアスレティックス(World Athletics、世界陸連)がこのシューズを禁止する可能性が報じられたことを受け、16日に一部のライバル会社の株価が上昇するという現象が起きた。

 世界陸連の広報担当者によると、関係者やアスリートをはじめ、医師、科学者、そして法律の専門家から構成される委員会が、問題のシューズに関して調査を行っているという。ここ数か月の陸上大会では、アスリートがナイキの厚底シューズを履いて記録を出すケースが続出しているが、委員会は今月中にもこのシューズの使用禁止を勧告するとみられている。

 世界陸連はAFPの取材に対して、「委員会で慎重に審議が行われているところだが、今月中には発表できることを望んでいる」と話し、何らかの規則改定が行われる場合は世界陸連の評議会で承認される必要があることも付け加えた。

 ナイキの厚底シューズが禁止されるという臆測が15日に報じられた後、日本のスポーツ用品大手でエリートランナー用に独自のランニングシューズを開発しているアシックス(Asics)や、ミズノ(MIZUNO)の株価が16日の東京証券取引所(Tokyo Stock Exchange)で一時的に急上昇。その後値は下げたものの、アシックスの終値は2.52パーセント高となった。

 その後、ドイツのフランクフルト証券取引所(Frankfurt Stock Exchange)では、同国スポーツ用品大手のプーマ(Puma)の株価が午前中に0.5パーセント以上の上昇を見せた。ライバル社のアディダス(Adidas)の株価も急伸したが、その後は下落となった。

 ヴェイパーフライのベーシックモデルのソール(靴底)には、カーボンファイバー製のブレード1枚が埋め込まれており、ランナーが踏み出すごとにエネルギーの蓄積と放出が行われる。ソールにはクッション性もある。

 昨年10月12日にオーストリアで男子フルマラソン史上初の2時間切りを達成したエリウド・キプチョゲ(Eliud Kipchoge、ケニア)は、3層のカーボンプレートと四つのエアクッションでソールが構成されるプロトタイプのヴェイパーフライを履いていた。

 また、その翌日には同胞のブリジット・コスゲイ(Brigid Kosgei)が、2017年から市販されている1層構造のベーシックモデルを履いて2時間14分4秒を記録し、ポーラ・ラドクリフ(Paula Radcliffe、英国)氏が持つ女子マラソンの世界新記録を更新した。

 キプチョゲはタイムを更新したのはあくまでも走りであり、シューズではないと反論。先日には英紙デーリー・テレグラフ(Daily Telegraph)に対して、「私は懸命に練習した」「テクノロジーが進化していることは否定しない。自分たちはテクノロジーとともに前進していかなければならない」とコメントした。

「フォーミュラワン(F1、F1世界選手権)ではピレリ(Pirelli)だけが全車にタイヤを供給しているが、メルセデスAMG(Mercedes AMG)が最も速い。その理由は何か? それはエンジンだ。ドライバーなんだ」「走っているのは選手で、シューズではない。運転しているのはドライバーであり、タイヤの製造者ではないんだ」

 米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)が、2014年以降に行われた多くのマラソンやハーフマラソンを対象に数字を分析したところ、ヴェイパーフライモデルは平均4~5パーセントのパフォーマンス改善をもたらしているという。遅いランナーほどより大きな恩恵を受けており、平均6パーセントの伸び率となっている。(c)AFP