【1月7日 AFP】グリーンランド(Greenland)のノース人社会が15世紀に消滅したのは、セイウチを絶滅寸前まで乱獲したためであることが判明した。研究結果は2日、学術誌「クォータナリー・サイエンス・レビューズ(Quaternary Science Reviews)」に掲載された。ノース人がいなくなった謎がこれにより説明される可能性があるという。

 北極地域で400年以上にわたり繁栄していたノース人は、中世社会において珍重されていた牙を得るためセイウチ猟を行っていた。研究によると、セイウチの乱獲と13世紀に象牙が欧州市場に大量流入してきたことによる経済的圧力が、ノース人社会衰退の一因となったという。

 英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)、ノルウェー・オスロ大学(University of Oslo)などの研究チームは今回、欧州全域における15世紀以前のセイウチの牙の加工品を調べた。その結果、それらのほぼすべてが、グリーンランドのノース人だけがアクセスできる地域のセイウチのものだったことが明らかになった。

 さらに、より後期の加工品ほど、雌や子どものものと思われる小型の個体から採取した牙で作られていることが判明した。これは、セイウチの数が急速に減少していたことを示唆している。

 ケンブリッジ大学考古学部のジェームス・バレット(James Barrett)氏は「グリーンランドに入植したノース人は、鉄や材木を得るために欧州と貿易を行う必要があり、主にセイウチ製品を輸出していた」と説明する。「ノース人は乏しくなっていく牙を採取するために、危険を覚悟で北極圏の奥深くまで入らざるを得なかった」

 セイウチの個体数が減少するにつれ、ノース人社会も衰退していった。

 論文の執筆者らによるとグリーンランドのノース人社会が消滅したのは、北半球が小氷期(Little Ice Age)に見舞われたことに伴う気候変動や、持続不可能な農業技術など他の要因も関係している可能性が高いという。

 オスロ大学のバスティアーン・スター(Bastiaan Star)氏は、セイウチの個体数が減少するとともに価格が急落し始めたとしたら、それによりノース人社会が大打撃を受けたに違いないと指摘した。「今回の研究結果は、その前兆を示唆している」 (c)AFP