【12月31日 AFP】シリア北部の避難民キャンプで、金属フェンスの傍らで車いすに座る9歳の少女は、記者から隠れるように毛布で顔を覆った。エジプト出身のこの少女は、左目と両足を失っている。そして今年3月、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の最後の拠点となったシリア東部バグズ(Baghouz)で、戦闘により両親も失った。

 少女は今、シリアのアインイッサ(Ain Issa)にある避難民キャンプの大きなテントで、他の23人の孤児たちと一緒に暮らしている。孤児たちは皆、ロシア、ウズベキスタン、インドネシア、タジキスタン、エジプト、そしてイラクなど、諸外国出身のIS戦闘員の下に生まれた子どもたちで、年齢は1歳半から13歳までとさまざまだ。

 孤児たちの面倒を見ているサラ・アブドラ(Sara al-Abdullah)さん(37)はこの少女について「ここにいる子どもたちの中でも、あの子は一番私の心を突き動かしました」と話す。自身にも3人の子どもがいるアブドラさん(夫とは死別)は、他の8人の女性たちと共にわずかな金額をもらい孤児たちの世話をしている。「あの子は引きこもりがちで、恥ずかしがり屋で、寂しそうにしているんです」

■失われた「子どもらしさ」

 ISの下で暮らし両親を亡くした孤児たちの中には、今なお目に見えて心に傷を負っている子どもがいるという。アブドラさんは「子どもたちは戦闘ごっこをしてお互いに撃ち合うまねをしたり、地面に地雷を埋めるようなしぐさをして遊んだりするんです」と話す。木片を握りしめて銃を構えるしぐさをしたり、IS戦闘員のように叫びながら戦闘のまねごとをしたりする子もいるという。

「すべてが、子どもたちの頭の中に染みついているものです。忘れさせるすべがありません。勉強はおろか、小さな子どもと遊びに出ることすらなかった。そうした当たり前のことをする機会を奪われてしまったんです」

 このキャンプで現在暮らしている24人の孤児たちは、何か月にもわたり食料不足と激しい爆撃が続いたバグズから逃れてきた何万人もの避難民の中にいた。

 キャンプを管理する男性は「(避難してきた時)子どもたちは本当に痛ましい状態でした。病院で治療を受けて少しずつ快方に向かいました」と当時を振り返る。しかし同キャンプは孤児支援のための援助を受けておらず、孤児たちを支えていくのは容易ではないという。男性は「衣服や食料なども重要だが、同時に子どもが心身の健康を取り戻し、心に染みついたISのイデオロギーを取り除くための支援も必要だ」とAFPの取材に話した。

■読み書きは…

 テントに戻ると、スアド・モハメド・アミーン(Suad Mohammed Ameen)さん(20)が子どもにTシャツを着せていた。アミーンさんは、孤児たちには食べ物や服も必要だが精神的なサポートも欠かせないと訴える。

「一番つらいのは、自分の父親や母親を目の前で殺されたことや、きょうだいがどうやって命を落としたかを子どもたちが私に話してくることです」と赤紫色のヒジャブを整えながらアミーンさんは話した。アミーンさんは子どもたちの心の痛みを和らげるため、物語を聞かせたり、少女らにはかぎ針編みを教えたりしようと決めた。「子どもたちと約束したんです。せめて読み書きができるようになるのを手伝うって」

 しかしキャンプを管理する男性は、最善の解決策は孤児たちがそれぞれの母国に受け入れてもらうことだと話す。シリア北部のクルド当局は、これまで繰り返し諸外国に拘束中の外国人戦闘員らの帰国受け入れを求めてきたが、まれな事例を除けばほとんどが拒否されている。その中にこうした孤児たちも含まれているのだ。

 孤児たちの面倒を見ている別の女性も、子どもたちを母国に戻してやりたいと望んでいる。「このテントの現状は本当に過酷なんです。母国に戻って、自分たちの国で教育や子どもらしさを取り戻してほしいと願っています」

 映像は9月26日撮影。(c)AFP/Delil Souleiman