【11月26日 AFP】かつて毎食米を食べていたミルナワティさん(34)は、糖尿病と米食の関連性を知り、米を食べない運動「ノー・ライス」に参加することにした。米の消費量が世界3位のインドネシアで今、ミルナワティさんのように米食を避ける人が増えている。

 人口2億6000万人のインドネシアには2000万人の糖尿病患者がおり、脳卒中と心疾患に次ぐ死亡原因となっている。世界の糖尿病患者数は4億2500万人で、その大半はインドネシアのような中・低所得国の人々だ。米には食物繊維やビタミンが含まれているが、精白米に過度に偏った食生活が世界的な糖尿病の増加と関連付けられると専門家は指摘している。

 ミルナワティさんは糖尿病の懸念から米を食べるのをやめ、野菜、肉、ナッツを多く取るよう心掛けている。米を断ってから約4か月たつが「米を食べるのをやめた最初の週は幽霊のような気分だった」と振り返る。

 インドネシアでは今、公式な統計は存在しないが、ソーシャルメディアで広がり、地方自治体も後押しするノー・ライス運動に参加する人が増えている。文化の中心として知られるジョクジャカルタ(Yogyakarta)は昨年、少なくとも週1回は米を食べるのをやめるよう住民に呼び掛けるキャンペーンを実施した。

■刷り込まれた米食神話

 しかし、かつての米食奨励策がこうした運動の妨げとなっている。独裁者スハルト(Suharto)は米を食料自給率向上のための土台と見なし、1970年代に米食奨励策を実施。数十年かけて国民の主食をトウモロコシやサツマイモから米に変えていった。スハルト政権はさらに、米を多く消費することは社会的地位の向上につながるというメッセージを売り込むことまでした。

 インドネシア科学院(LIPI)の歴史専門家アンハル・ゴンゴン(Anhar Gonggong)氏は、「米は他の主食よりもおいしく、食べれば健康になるだけではなく、社会的地位も向上するという幻想を人々は抱かされた」と話す。「この米にまつわる神話には独裁主義的な側面がある。米を食べるよう銃で脅したわけではないが、多くのインドネシア人の心の奥深くにこの神話が刷り込まれた」

 インドネシア人の米の年間消費量は、世界平均の53キロの約3倍に上っている。スハルトによる米食奨励策はあまりにもうまくいきすぎて需要が供給を上回り、需要を補うため輸入に頼っているのが現状だ。

 首都ジャカルタ在住の47歳の男性は、「私たちは米を食べなければ満腹にならないという神話と共に育った」とし、これは胃袋だけではなく心の問題でもあると述べた。

 インドネシア政府は現在、数十年来の政策を転換して国民に米の消費を抑えるよう呼び掛けている。だが、消費量を世界平均水準まで引き下げるにはあと数十年かかると予想している。(c)AFP/Haeril HALIM