【11月19日 AFP】9月末から10月にかけて行われた第17回世界陸上ドーハ大会(17th IAAF World Championships in Athletics Doha)では、地元選手の金メダル獲得に街が沸いた一方、大会の運営には批判が集まり、不安は3年後のサッカーW杯(2022 World Cup)にまで波及している。

 10日間の大会で、おそらく競技外で最も激しく批判されたのが、大会序盤の空席が目立ったスタジアムだろう。そのショッキングな映像を見た人からは、W杯の観客動員を不安視する声も上がった。

 英国のサルフォード大学(University of Salford)でスポーツビジネスを教えるサイモン・チャドウィック(Simon Chadwick)教授は、「典型的な超巨大イベントの失敗例です。『フィールド・オブ・ドリームス(Field of Dreams)』よろしく『それを作ればファンは来る』と信じた結果がこれですよ」と話し、野心的なスタジアムを建設したものの期待外れに終わった大会として、1976年のモントリオール五輪と2004年のアテネ五輪を挙げた。

 男女の100メートルのような花形種目のある日でさえ、観客がまばらだったことで、国際陸上連盟(IAAF)のセバスチャン・コー(Sebastian Coe)会長にも批判の矛先が向いた。ネガティブな論調の記事に対して、コー会長は「観客のことを取り上げるのは簡単だが、もっと本質的な部分に目を向ける必要がある」と反論した。

 もっとも、大会が進む中で観客数は増えていき、国営の巨大組織が観戦チケットを無料でばらまいたこともあって、状況は改善した。1500メートルの元世界女王であるジェニファー・シンプソン(Jennifer Simpson、米国)も、同種目の予選後には「雰囲気が全然違っていて、すごく盛り上がっていた」と話していた。

 欧米の外交使節は、観客動員などのさまざまな問題を「厳しく断罪」するとカタールをけん制したが、チャドウィック教授によれば、カタールはどこ吹く風なのだという。その理由は、カタールが世界陸上やW杯のようなスポーツ大会を安全確保の手段と考えているからだ。教授は「観客がゼロだろうが、彼らにとってはどうでもいいのです。国の存在感や影響力、重要性をアピールして、目の前の脅威を軽減できたんですから」と指摘する。

 カタールはサウジアラビアやバーレーン、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)といった国々と2年前から国交が断絶している。カタールは否定しているが、各国はカタール政府がイランやイスラム過激派を支援していると非難し、カタールと直接行き来する手段を封鎖。カタール機用の空港のスペースを閉鎖し、カタール国民の渡航を制限している。

 ところがスポーツの国際大会を主催することで、カタールは「そうした脅威からある程度は守られる」のだと教授は言う。2015年のハンドボール世界選手権(2015 World Handball Championship)、2016年に行われた自転車競技のUCIロード世界選手権大会(2016 UCI Road World Championships)も、同じように観客動員は振るわなかったそうだ。