【8月9日 AFP】地球温暖化を食い止めるために菜食主義者やビーガン(完全菜食主義者)になる必要はない。だが、人類が肉を食べるのをやめれば、温暖化対策は楽になるだろう――国連(UN)の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が8日公表した「特別報告書」は、曖昧で食肉賛成派・反対派どちらにとっても不満足な内容となった。

 気候変動と人間の食生活との関連性についてまとめたこれまでで最も包括的な報告書の要点は、非常に明白だ。気候変動は世界の食料供給を脅かしており、食料の生産方法でさえ地球温暖化に拍車をかけているということだ。

 熱帯地方では、気温上昇により収穫量が減少し、主要穀物の農地が奪われ、食用植物の必要養分も失われ始めている。

 一方、世界のフードシステム(食料の生産から流通・消費までの流れ)は、世界で排出される温室効果ガスの少なくとも4分の1を占めている。世界人口は今世紀半ばまでに20億人増加すると考えられているが、安易に食料生産量を増やせば、地球の平均気温は危険レベルをはるかに超えることになる。

 今日、食料関連の温室効果ガス排出量の半分以上が畜産業によるものだ。うち半分は、羊や牛の飼育に関わるもので、牛の割合が特に高い。

 英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(London School of Hygiene and Tropical Medicine)で栄養学と国際保健を専門とするアラン・ダングール(Alan Dangour)氏は、「今日発表されたIPCCの報告書で、私たちの食習慣が環境に多大な影響を及ぼしていることが確認された」と述べた。「フードシステムによる環境への影響を抑制するには、食生活における肉類の消費を減らすことが重要であることは明白だ」

■気候に対する二重の脅威

 畜産業は、気候にとって二重の脅威となっている。特にブラジルの亜熱帯地域では、二酸化炭素を吸収する森林が放牧地や牛の餌となる大豆作物を育てる畑に変わっている他、家畜が排出する大量のメタンガスは温室効果ガスの発生源にもなっている。

 米首都ワシントンに本部を置く政策シンクタンク「世界資源研究所(WRI)」によると、同量の牛肉の動物性たんぱく質と標準的な植物性たんぱく質を比較した場合、平均して肉牛の飼育には植物栽培の20倍の広さの土地が必要となり、温室効果ガス排出量も20倍となるという。

 こうした理由から、植物性食品を中心とする「バランスの良い食生活」に移行することにより、気候変動の原因を大幅に減らすことができるとIPCCは結論付けている。

 この結論は、菜食主義を全面的に支持しているようにみえるかもしれない。だがIPCCは、世界中の人々に対し肉食を一切やめるよう義務付けたり奨励したりしているわけではないと述べている。

「バランスの良い食生活」には、「雑穀やマメ、野菜、果物、木の実、種子」に加え「弾力性があり、持続可能的で、温室効果ガスの排出量が少ない動物性食品」も含まれると報告書は指摘している。

 報告書の作成に関わった100人以上が、生産過程で二酸化炭素排出量が極めて多い赤身肉の禁止を求めるまでに至らなかったのにはいくつか理由があるようだ。そもそも報告書では、何も要求していない。

 ポツダム気候影響研究所(Potsdam Institute for Climate Change Impacts)の元所長で報告書の共同執筆者であるヨハン・ロックストローム(Johan Rockstrom)氏は、「われわれが提案するバランスが取れた食生活とは、約100グラムの赤身の肉を毎日ではなく週に1度食べることだ」とAFPに語った。(c)AFP/Marlowe HOOD