【6月10日 AFP】米メキシコ両政府が不法移民対策の強化で合意したことにより、メキシコからの全輸入品に対する米政府による関税発動は回避されたが、これによって明らかに恩恵を受けたものがいると専門家は指摘する。人身売買業者だ。

 ドナルド・トランプ(Donald Trump)米政権は今月10日からメキシコからの全輸入品に対する5%の追加関税を発動し、10月までに最大25%に引き上げると表明。しかし両政府は7日、メキシコ政府が新設した国家警備隊を対グアテマラ国境沿いに配備し、密入国をあっせんする組織を解体するという不法移民対策で合意し、関税発動は直前で回避された。

 しかし、国家警備隊が対グアテマラ国境沿いで存在感を増せば、人身売買ビジネスが拡大するだけだと専門家は指摘する。

 メキシコのイベロアメリカ大学(Universidad Iberoamericana)で国際情勢を研究するハビエル・ウルバーノ(Javier Urbano)氏は、「規制のメカニズムが導入され、一層厳格化されれば越境にかかるコストが上昇し、人身売買の組織化が強化される」と指摘。「(越境が)困難になりコストが上昇すれば、人身売買業者の需要も高まる」と強調した。

 北上する移民にしばしば同行する活動家のルイス・ビジャグラン(Luis Villagran)氏も、強硬な政策は人身売買業者の需要を高めるだけだと指摘する。また、このような狭量な移民政策によって人身売買業者に頼る中南米出身者が増えていると批判している。

 多くの移民がグアテマラからメキシコに入国を試みる一方、ビジャグラン氏によると対ベリーズ国境を越境するルートも確立され始めており、さらに「対ベリーズ国境付近には警備隊は配備されておらず、業者は越境させるのに900ドル(約9万8000円)を要求している」という。

 また、いちかばちかで米国行きを目指す移民たちも対応は迅速だ。

 メキシコ南部チアパス(Chiapas)州タパチュラ(Tapachula)にある避難施設に滞在しているホンジュラス移民の男性(57)は、「懸念しているのは米国が国境を封鎖するかもしれないことだ」と語る。

 男性は「でも、移民たちはいつもやり遂げる。米国は国境を閉じることも、いくつもの壁を建設することもできるが、移民たちはいまだにやってくる」「トランプはやれることをなんでもできる、しかし移民を止めることはできない」と語った。(c)AFP/Yussel GONZALEZ