【5月19日 AFP】ギリシャの地ビール醸造家、ソフォクレス・パナギオトウ(Sophocles Panagiotou)氏は、たる越しに大事そうにくみ上げたエールビールをシリンダーへ注ぎ、慣れた手つきでグラスへ移した。「セプテム・レッドエール(Septem Red Ale)」は、彼のオリジナルの銘柄だ。

 大学で化学を専攻し、ワイン生産者となっていたパナギオトウ氏は、ギリシャ財政危機が始まった10年前、首都アテネから約200キロ離れたエビア(Evia)島にある家族の土地に地ビール醸造所を造る機会に恵まれた。「とんでもない考えだった。当時みんなからは、宇宙人を見るような目で見られた」。オートメーション化された工場で、同氏はAFPにそう語った。ここでは現在、12銘柄のビールが製造されている。

 10年前のギリシャでは、ビール醸造所の数は10か所にも満たなかったが、現在は45か所あるという。パナギオトウ氏は最近、ギリシャ・ビール醸造業者組合(Union of Greek Breweries)の会長に選出された。

■財政危機で変わった習慣

 2010年の財政危機に屈したギリシャでは、中小企業数万社が破綻し、失業率が急上昇した。だが、地ビール産業と醸造所を勢いづけるきっかけとなったのも、実は財政危機だった。危機によって外国の卸売業者は、現金による前払いを要求するようになったのだが、多くのギリシャ企業にはそれができなかった。

「危機の間に習慣が変わった」と話すのは、ビール愛好家で醸造家でもあるヤニス・ケファラス(Yannis Kefalas)氏。「今はギリシャ経済を助ける手段として、国内生産物に需要が集まっている」という。

 ケファラス氏は3年前に首都アテネを離れる決断をし、故郷のイカリア(Ikaria)島へ戻り、地ビール醸造所を開設した。銘柄は島の名にちなんで「イカリオティッサ(Ikariotissa)」と名付けた。現在はドイツへ輸出しており、スウェーデンやカナダ、米国への進出も目指している。