【5月21日 AFP】(更新)フランス・パリの控訴院は20日、同国ランス(Reims)の病院で10年間植物状態となっている男性、バンサン・ランベール(Vincent Lambert)さん(42)の生命維持装置を再開するよう命じた。ランベールさんの担当医らは、この数時間前に延命治療装置の停止に踏み切っていた。

 担当医らは20日、ランベールさんの妻ラシェルさん他親族数人の意向を踏まえて「消極的安楽死」法に基づき、水分補給や栄養の静脈投与を停止することを決定した。だが、控訴院は同日、関係機関に対し、ランベールさんの生命を維持するために「あらゆる措置を取るよう」命じた。

 国連(UN)の「障害者の権利委員会(Committee on the Rights of Persons with Disabilities)」は今月、仏政府に対し、法的問題を調査している間はいかなる決定も行わないよう求めていた。

■家族間で意見対立

 脳に重度の損傷を負い四肢がまひしているランベールさんの延命問題をめぐっては、家族が分裂し法廷で争う事態となっており、フランス国内でも議論となっている。

 病院関係者はAFPに対し、仏北東部ランスにあるセバストポル病院(Sebastopol Hospital)で治療を受けているランベールさんは、生命維持装置を外されれば数日から1週間以内に死亡するだろうと述べた。

 延命治療中止に断固反対してきたランベールさんの母親ビビアンさんは20日、AFPの取材に対し興奮気味に「彼らはバンサンを消し去ろうとしていた。これ(裁判所命令)はとても大きな勝利。バンサンへの栄養と水の補給が再開される。今回は裁判所を誇りに思う」と語った。

 しかし、安楽死を支持するランベールさんのおいのフランソワさんは、生命維持装置の再開は「医療・司法制度による純然たる加虐行為だ」と主張した。

 ランベールさんの妻のラシェルさんも同日、仏放送局ラジオ・テレビ・ルクセンブルク(RTL)のラジオインタビューに応じ、「(生命維持装置を外して)夫が逝くのを見届けることは、夫が自由の身になるのを見ることでもある。人にはそれぞれ異なった意見や信念を持つことができる。しかし何よりも、私たちをそっとしておいてほしい」と述べた。

 この間、右派系週刊誌バルール・アクチュエル(Valeurs Actuelles)のウェブサイトには、病室でビビアンさんが、まばたいて涙を振り払おうとしているかに見えるランベールさんに泣かないでと語りかけ、慰めている映像も公開された。

■マクロン大統領は介入拒否

 一方、ランベールさんの両親らが介入を呼び掛けたエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)大統領は「延命治療中止の決定は、医師らとランベールさんの法定代理人である妻の間で続けられてきた話し合いによって下されたものだ」として、介入を拒否する姿勢を示した。

 パリでは20日午後、マクロン大統領に介入を求めるデモ行進が行われ、参加者は大統領府に向かって行進した。(c)AFP/Renaud LAVERGNE