【5月14日 AFP】13日に発表された研究論文で、クモ形類動物の一種が、巣の糸を巻き上げて弾性エネルギーを蓄え、獲物に向かって自らの体を猛烈な勢いで発射させることが分かった。

 三角形の巣を張るオウギグモ属の仲間で「Hyptiotes cavatus」の学名を持つこのクモは、人間が石弓や投石機を使って筋肉のエネルギーを増強させるように、外部装置を使って筋肉エネルギーを増強させる。

 米アクロン大学(University of Akron)の博士課程学生サラ・ハン(Sarah Han)氏は、森を散策中にこのクモに興味を持ったという。

 ハン氏はAFPの取材に「このクモは興味深い方法で捕食をしているが、それについてはほとんど解明されていなかった」と語った。「観察に基づく方法で記述されたことはあったが、誰も定量化していなかった」

 ハン氏と研究チームは実験室環境でこのクモを観察し、獲物のハエを捕らえる様子を高速度ビデオカメラで撮影した。

「クモは、人間が腕を使って弓の弦を引き絞るように、筋肉を使って巣を巻きつけ、獲物が巣に接触するまで、その姿勢を保持する」とハン氏は説明する。クモは糸にかけた張力を何時間も維持するという。

「クモが巣を解き放つと、クモと巣の両方が急速に前方へ押し出される」「急速に動いた巣が獲物の昆虫をからめ捕る。離れた場所からでも捕食行動を開始できる」

 米科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された論文で、このクモは最大772.85メートル毎秒毎秒の加速度で、自らの体を前方に射出することが分かった。

 研究チームは生成される全出力を算出し、それがクモの筋肉量だけで生成される可能性のある出力を大幅に上回ることを明らかにした。これにより、単に足の力を使って飛んでいるのではなく、解き放たれる糸に蓄えられた潜在エネルギーによる動作であることを確認した。

 また、クモは後ろ足の爪を離した後は、固定した姿勢を保っていた。

 論文によると、組み立てた道具を武器として利用することには多くの利点があり、このクモはエネルギーを生成し蓄えるという特殊な生体構造を進化させる必要性から解放されたという。

 さらに、離れた場所から獲物を攻撃でき、自らがダメージを受ける危険性が低減する。人間がエネルギー出力を増強するような武器を開発したのも、こうした利点があるからだ。

 ハン氏は、他にも糸に蓄えられたエネルギーを利用して獲物を捕獲するクモがいる可能性があると指摘し、今後さらなる研究が期待される分野だと話した。(c)AFP/Issam AHMED