【4月14日 AFP】ネパールの伝説的な少数民族シェルパ(Sherpa)の間では、登山は確固として男性の領域であり、女性の役目は夫がヒマラヤ(Himalaya)山脈を征服しに出かけている間、その留守を守ることだった。

 だが今、この伝統に対し、挑戦状が突き付けられている。山で夫を亡くした2人の女性が、世界最高峰エベレスト(Mount Everest)登頂を試み、保守的な共同体に、夫亡き後の妻の役割の再考を迫っている。

 シェルパ族の2人の女性、フルディキ・シェルパ(Furdiki Sherpa) さんとニマ・ドマ・シェルパ(Nima Doma Sherpa) さんは、高地登山ガイドとして称賛を受ける技能の持ち主だ。2人ともこれまで、世界最高峰への遠征に出かけることになるとは夢にも思っていなかった。だが短い登山シーズンの到来を迎えた4月、彼女たちはまさにその準備に取り掛かっている。

 フルディキさんは「男たちは山に登る。私たちには別の仕事があった。私は茶屋を営み、家族の世話をしていた。山に登るなんて考えてもいなかった」とAFPの取材に答えた。

 それは2013年、エベレスト登頂を目指す登山者のために補助ロープを取り付けていた夫を失ったときに一変した。

 これまでのシェルパ族の多くの女性たちと同じように、フルディキさんは突然、3人の子どもを養育する稼ぎ手を失った。ネパールで夫を失った女性に付いてまわる不幸の烙印(らくいん)を押された。

 その1年後、同じような悲劇を経験したニマ・ドマさんとつながるようになった。ニマ・ドマさんの夫はエベレストで起きた雪崩で、ネパール人ガイド15人とともに命を落としていた。「夫が死んでから何か月もの間、夫との思い出にひたり、家でただ泣き暮れていた。でも家族や自分の面倒もみなければならない。夫を亡くした中で、容易ではなかった」とニマ・ドマさん。

 仕事が必要だった2人は、首都カトマンズでトレッキングガイドの職を探し始め、地元の仏塔で亡き夫のために火をともしていた時に出会い、やがて顔見知りになった。「お互いの経験や悲しみを打ち明けるようになり、どう生きるべきかを話し合うようになった」とフルディキさん。

 アマチュア登山家のトレッキングのガイドを何度か手伝った後、2人は本格的な登山訓練を開始。まもなくエベレスト登頂計画が具体化した。そして昨年11月、2人はアイランド・ピーク(Island Peak)とチュル・ファーイーストピーク(Chulu Far East Peak)という6000メートル超の困難な山嶺(さんれい)の登頂に成功した。

 エベレストへの「夫を亡くした2人の妻による登頂(Two Widow Expedition)」を企画する登山会社、アン・ヒマラヤ・アドベンチャー(Angs Himalayan Adventure)創立者でベテランガイドのアン・ツェリン・ラマ(Ang Tshering Lama)さんは、「彼女らは山育ちだ」「2人は登山家としてとても強く、意志が固い」と太鼓判を押す。