■嗅覚が奪われ短命に

 研究を指揮した平林准教授はAFPの取材に対し、「ラットの幹細胞は、腎臓の形成に必要となる2種類の主要な細胞へ簡単には分化しなかった」が、逆に「マウスの幹細胞は効果的に分化し、腎臓の基本構造を形成した」と説明した。

 このような差が生じる理由はまだ完全には明らかになっていないが、幹細胞や技術上の理由ではなく、マウス体内の「環境因子」が原因となっている可能性が高いと、研究チームは考えている。

 だが、ラットの胚も問題がないわけではなかった。

 尿管(腎臓とぼうこうをつなぐ管)に正常に接続されるなど機能的とみられる腎臓が作られたものの、生後間もなく死んでしまった。胎内で腎臓を発育させる遺伝子を除去することで嗅覚も奪われたとみられ、母乳が探せずに飲むことができなかったためだ。

 短命だったことで、腎機能に対する検査は限られたものとなったが、「解剖学的観察に基づき」腎臓は機能していたと思われると、平林准教授は説明した。

 また、別の動物種の宿主で腎臓を作製すると、臓器が宿主の細胞によって「汚染」される可能性もあるという懸念も存在する。

■倫理上の問題

 ヒトの臓器を動物の体内で作ることは、倫理上の大きな問題も引き起こす。ヒトの幹細胞が宿主の脳や生殖器細胞に分化する可能性があるためだ。

「主な倫理的懸念は、意識や配偶子(生殖細胞)が作られる危険性があることだ」と、平林准教授は指摘し、「ヒトの臓器を動物の体内で作製する前に、重大な技術上の障壁や複雑な倫理上の問題が議論されなければならない」と続けた。

 ブタは通常、ヒトの臓器再生に最適な宿主だとみなされているが、ヒトの妊娠期間が40週であるのと異なり、ブタの妊娠期間は16週間にとどまる。このため、ブタはヒトの臓器の作製に適していないかもしれない。ウシは妊娠期間が40週のため、より適している可能性がある。

 平林准教授は、自分が生きている間に、動物の宿主内で作製されたヒト臓器を目にすることを期待している。

「自分の寿命がいつ終わるか正確には分からない――明日かもしれないし、30年後かもしれない。だが、動物を宿主とする臓器の作製が実用化されるニュースを心待ちにしている」  (c)AFP/Sara HUSSEIN