【2月2日 AFP】レバノン首都ベイルートの北、地中海の海岸線からわずか数キロの緑の丘陵地にあるのは、日産自動車(Nissan Motor)前会長カルロス・ゴーン(Carlos Ghosn)被告(64)が共同創業したワイン醸造所だ。

 フランス、ブラジル、レバノンの国籍を持つゴーン被告は、日産の会長として所得を過少申告した容疑で昨年11月に逮捕され、以降は東京の拘置所に留め置かれている。

 だが、ワイン「イクシール(Ixsir)」の醸造所は、ゴーン被告の急激な転落にも何の影響も受けていないようで、現在もこれまでと同じようににぎわっている。

 海岸沿いの町バトルーン(Batroun)を見下ろす醸造所では、従業員らが発酵タンクや数百本ものオークだるの間で、あるいは瓶詰め室で忙しく働いている。しかし、経営陣がAFPとのインタビューを拒否したためか、従業員らの口は重く、匿名を条件しなければ何も話してはくれなかった。

「万事いつも通り。何も変わりはない」と、従業員の一人は語った。またワインボトルが並ぶブティックの店員によると、ワイン愛好家らは引き続き試飲に集まってきているという。

 ゴーン被告は、中東の小国レバノンへの投資をさまざまな形で行っている。中でも、このワイン醸造所は最も目立つ事業の一つだ。多くのレバノン人にとって、ゴーン被告は国外へ離散した同胞の象徴であり、商才に長けるレバノン人の最もいい例とみなしているため、今回の逮捕劇には衝撃を隠せないでいる。

■魔法

 他方である従業員は、ここで造られるワインが世界の国々に輸出されていることに触れ、その輸出先が、フランス、スイス、英国、米国、メキシコ、そして日本であることを明らかにした。今回の一件について、ここで働く人の多くは、日本での売り上げに影響をもたらすことはあっても、欧米諸国への輸出に関してはこれまで通りで、何ら問題は出ないだろうとの見方を示している。

 レバノン全土にある計120ヘクタールの畑から毎年600トンのブドウが運び込まれるこの醸造所。年間の生産本数は約50万本に上るという。

 2008年の開業以来、ゴーン被告の醸造所は多くの老舗ワイナリーと競争し、成功を収めてきた。イクシールが市場を瞬く間に駆け上がっていった様子に多くの人は、ゴーン被告の手腕のなせる魔法を見ている。