■安全保障と「見返り」

 北朝鮮側も外交に失敗した場合を想定し、朝鮮戦争(Korea War)時の同盟国である中国との関係を緊密に保っておく必要がある。

 北京で活動するフリーランスの政治コメンテーター、フア・ポー(Hua Po)氏は、北朝鮮が非核化協議を進めるにあたり、中国は経済面、政治面、安全保障面での保証を提供することができると述べる。「朝鮮半島の非核化が宣言されたとしても、中国が核による安全保障を北朝鮮に確約できる」

 北朝鮮はミサイル・核計画に対し幾重にも制裁を科されており、米国も北朝鮮が核武装を放棄するまで制裁を続ける構えを見せている。一方の北朝鮮は、大国として唯一の同盟国である中国の習主席が、対北制裁の緩和に向けて動くことに期待を寄せる。

 シンガポールの「S・ラジャラトナム国際研究院(S. Rajaratnam School of International Studies)」のグラハム・オンウェッブ(Graham Ong-Webb)氏は、「米国側は北朝鮮の核施設が『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)』を達成するまで制裁を解かない方針を譲らないが、北朝鮮としてはCVIDが達成されて初めて制裁が解かれるのではなく、一定の目標達成ごとにそれに見合った見返りを受けることを求めている」と指摘する。

 他方で、「中国は挑発されたり、地域の安定が覆されたりすることがない限り、北朝鮮の非核化の進行についてよりいっそうプラグマティックだ」と語るのは、北京を拠点とするアナリスト、トム・フォウディー(Tom Fowdy)氏。「米政府が(金氏に対し)経済的に譲歩しなかった場合、北朝鮮側が好戦姿勢に戻ることがないと予想された場合でも、中国はしかるべき方法で必ず助け舟を出すだろう」

 金氏の祖父、故金日成(キム・イルソン、Kim Il-Sung)国家主席は冷戦時代、同じ共産主義大国としてライバルだった中国とロシアが対立するよう仕向け、両方から譲歩を引き出すことに成功している。だが、金委員長のここまでの画策は一方通行のようだ。金氏の4回の訪中に対し、習主席はまだ北朝鮮を訪れていない。北朝鮮の国営メディアは10日、習氏が金氏の招待を受け入れたと報じたが、これは中国メディアでは全く報じられていない。

 CSISのグレーザー氏は金委員長と習主席についてこう見る。「両首脳は今の関係、関わり方について、それぞれ自分たちの目的にとっての価値を見いだしているが、私の見解ではまだ大きな不信感があるのではないか」 (c)AFP/Elizabeth LAW