■貴重な「白い黄金」

「白い黄金」として長く知られていた岩塩は、昔は貴重なものだった。ハルシュタットでは毎日最大1トンの塩が採掘されたが、これは「欧州の半分」の需要を満たす供給量だったと、レシュライター氏は指摘する。

 アクセスが困難な位置にあることも手伝って、ハルシュタットは紀元前800年代の欧州大陸で最も裕福で大きな交易の舞台となった。これを裏付けているのが、この地で発見されたアフリカの象牙から作られた剣の柄や、地中海製のワイン用の杯などだ。

 約60年前にオーストリア国立自然史博物館(Natural History Museum Vienna)によって開始された2回目の発掘では、さらに驚くべき品物が見つかった。

 地表下100メートル超のトンネル内で考古学者らが発見したのは、青銅器時代に「産業」規模で行われていた採掘活動の「比類ない証拠」だった。

 塩分によって完全な状態で保存されていた3000年以上前の木製の擁壁(ようへき)構造物をはじめ、発掘では無数の工具や皮製の手袋、握りこぶしほどの太さのロープ、おびただしいたいまつの残骸などが発見されたのだ。

■今も現役

 ケルト人も使用し、またローマ時代にはドナウ川(River Danube)沿いに駐屯していたローマ軍兵士への給与としても使われていた塩──「塩(sal)」は、「サラリー(salary)」の語源だ──の採掘は、前史時代からやんだことがない。今日でも約40人の作業員が、高圧水を使って年間25万トン相当の塩を抽出している。

 映像は2018年8月撮影。(c)AFP/Philippe SCHWAB