【12月18日 AFP】五輪のショートトラック女子で合計2個の金メダルを獲得した韓国の沈錫希(Suk-Hee Shim、シム・ソクヒ)が17日、選手に暴力を振るったとして起訴された自身のコーチの裁判に証人として出廷し、長年にわたる暴行の内容を涙ながらに告白した。

 現在21歳の沈は、2014年ソチ冬季五輪と母国開催となった今年の平昌冬季五輪のショートトラック女子3000メートルリレーで優勝するなど、合計4個の五輪メダルを手にしている。しかし、同国南部の水原(Suwon)で開かれた公判では、自身のコーチを務めていたチェ・ジェボム(Cho Jae-beom)被告に7歳の時から暴力を受け、「心に深い傷を負った」ことを告白。コーチの暴力は、同選手が成長するにつれて「エスカレートの一途」をたどったという。

 沈は「私が7歳の時から、彼に頻繁に暴力を振るわれたり暴言を吐かれたりしていました。あるときには、アイスホッケーのスティックでたたかれ、指の骨を折られたこともあります」と話すと、時にはナットを投げつけられ、額が切れたこともあると訴えた。さらに、平昌五輪の数週間前には「特に頭部をひどく蹴られたり殴られたりして、『ここで死ぬかもしれない』とすら考えた」と証言して泣き崩れた。

 アジアのスポーツ大国で、夏季と冬季の五輪のメダル順位で常にトップ10に入っている韓国は、日本以外で夏冬両方の五輪を開催している唯一のアジア勢でもある。しかし、激しい競争社会である同国において勝つことが全てとなっているスポーツ界では、アスリートのキャリアに巨大な支配力を保持している指導者からの暴力や暴言が横行。こうしたパワハラを告発する人は競技から外され、「裏切り者」のレッテルを貼られることになる。

 告発すれば選手生命が絶たれるとチェ被告に洗脳され、「とてつもない恐怖と不安にさいなまれていた」という沈は、「うつ病、不安症、不眠症、そして心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療を受けている」と明かした。さらに、平昌五輪前に受けた暴力によって脳振とうの症状に襲われ、大会本番ではその影響を受けて、1500メートルで銀メダル、1000メートルで銅メダルを手にしたソチ五輪のような活躍ができなかったと訴えた。

 チェ被告は警察に対して、沈やその他の選手3人に「パフォーマンスの向上」を促すために合宿で暴力を振るったことを認め、10月には裁判で暴行罪により懲役10月が言い渡されたが、判決を不服として控訴していた。(c)AFP