【12月16日 AFP】ベトナム・ホーチミン(Ho Chi Minh)にあるスエンタム(Xuyen Tam)運河の両岸には、大小さまざまな形の民家が立ち並んでいる。廃材や金属くず、プラスチックの切れ端を集めて造られ、汚染された運河に今にも落ちそうなほど水際ぎりぎりに建てられた家もある。

 ごみが散乱し、水が黒ずんでいることから「黒い運河」と呼ばれるようになったこの水路の岸辺にいる大勢の人々は、不法居住者だ。だが、こうした仮設の家屋は、政府が以前から公約として掲げてきた運河周辺の再開発計画の下で解体されることになっている。

 こうした状況に、スエンタム運河沿いの繁華街で28年間、軽食を売りながら細々と暮らしてきた高齢のグエン・ティ・マイ(Nguyen Thi My)さんは、不安を募らせている。

 家族と暮らすにぎやかな自宅からAFPの取材に応じたマイさんは、「ここから引っ越すことになるのは残念です。この辺りのことはよく知っているし、商売するにもいい所なのに」と語った。

 ホーチミン市内を蛇行するように流れる運河沿いには、今も2万軒の家屋があり、マイさんの家もそのうちの一つだ。同市の大規模な再開発プロジェクトに伴い、これらの家屋は2020年までに解体される予定で、その後は、運河沿いの一部は仏パリに似せた遊歩道や舗装道路として生まれ変わり、現代的な店舗や建物が並ぶことになっている。

 この運河沿いにあった約3万6000軒の民家はすでに解体された。住民は、郊外に引っ越すか、あるいは相場以下のケースが多い補償金を受け取るかのいずれかの選択を迫られた。

 一方、ル・ティ・タン(Le Thi Thanh)さん(61)のような一部の運河住民は、ごみや悪臭にうんざりしているとして、別の場所に移れてうれしいと話す。スエンタム運河沿いに住んで20年になるというタンさんは、「皆、運河にごみを捨てたり排せつしたりする。そのために私たちは、汚染と共存しなければならないんです」とAFPに語った。

 グエン・バン・ムック(Nguyen Van Muc)さんのように、引っ越しで不運な目に遭った元住民もいる。

 ムックさんは、3年前に公営住宅への転居を余儀なくされた。新しい家は、床に陶製タイルが敷かれ、壁にはしっくいが施されていたが、広さはヌオックレン(Nuoc Len)運河沿いにあった羽目板屋根の家の半分ほどしかなく、元いた場所からは20キロも離れていた。

 元警官のムックさんは、「中央政府や地元当局に何度か苦情の手紙を送ったが、何の返事もない」とAFPに不満を漏らした。(c)AFP/Kao Nguyen