【12月15日 AFP】11月のラグビー・テストマッチシリーズは、王者オールブラックス(ニュージーランド代表)がW杯日本大会(Rugby World Cup 2019)の優勝候補としての地位を維持した一方、アイルランドが彼らの足元に迫っていることを改めて印象づけた連戦となった。

 2015年のW杯イングランド大会(Rugby World Cup 2015)では、南半球の各国がベスト4を独占したが、現在の世界ランキングはオールブラックスの1位こそ守られているものの、以下はアイルランド、ウェールズ、イングランドという欧州の3チームが続いている。現在のチーム状態を考えると、日本大会で欧州勢が一つも4強に入れなければむしろ大きな驚きという状況になっている。

 特にアイルランドは、11月17日に16-9でオールブラックスを退け、ホームでは初となる同国相手の勝利を飾った。アイルランドは2年前にも米シカゴ(Chicago)で40-29の勝利を収めており、オールブラックス戦はここ3試合で2勝。チームは2018年の年間最優秀チームにも輝いた。

 オールブラックス戦でとりわけ光ったのがアイルランドの守備陣で、イングランド代表の助監督などを歴任し、現同代表オーウェン・ファレル(Owen Farrell)の父親でもあるアンディ(Andy Farrell)コーチが組織したディフェンスは、他チーム相手ならトライを量産するオールブラックスに1トライも許さなかった。

 さらにアイルランドは、シックスネーションズ(Six Nations Rugby 2018)でグランドスラム(全勝優勝)を達成しており、今年はわずか1敗しかしていない。

 ニュージーランドのスティーブ・ハンセン(Steve Hansen)ヘッドコーチ(HC)はアイルランドについて、「現時点では彼らが世界ナンバーワンのチームだ」「だから、彼らをW杯の優勝候補と呼びたいならそれでいい。私は優勝候補だと思う」とコメントしている。

 一方、ハンセンHCと同じニュージーランドの出身で、オールブラックス次期指揮官の最右翼と言われるアイルランドのジョー・シュミット(Joe Schmidt)HCは、これを否定する。今季の最優秀コーチに選ばれた同氏は、「1日1日進むだけだし、W杯まではまだ11か月ある」と話している。

 確かに不安材料がないわけではない。例えば選手層は厚くないため、驚異的な活躍で年間最優秀選手に選出されたSOジョニー・セクストン(Johnny Sexton)をはじめ、レギュラーにけがなどのアクシデントがあった場合にはチーム力が低下する恐れがある。

 またアイルランドはW杯で一度もベスト4に入ったことがなく、期待の高まりが重圧となってのしかかる可能性もある。これまでは「勇敢な格下」で良かったのが、現在のアイルランドはそういう立場のチームではなくなっている。

 対してニュージーランドは、間違いなく選手層に厚みがある。またイングランド戦とアイルランド戦では、ボーデン・バレット(Beauden Barrett)のドロップゴールから得点を挙げ、基本となるランニングラグビーに着実な得点パターンを加えていることをうかがわせた。

■W杯は「どこが勝ち進むか本当に分からない」

 またイングランドは、前回W杯ファイナリストのオーストラリアに勝利した試合で、フォワードのパワーを生かしたプレーとバックスの洗練されたプレーとをうまく組み合わせたラグビーを印象づけた。11月シリーズはニュージーランドに15-16と惜敗したものの、全体では4戦3勝。シックスネーションズを含めて5連敗を喫した年初から完全に復調した感がある。

 しかし、12-11で勝利したシリーズ初戦の南アフリカ戦では、終了間際にファレルが見舞った危険なタックルが見逃される幸運もあり、これが反則を取られていれば敗戦に終わっていた可能性もあった。悪質なタックルとリプレー映像の使い方は、現在ラグビー界全体で大きな問題となっている。

 W杯優勝2回の南アフリカは、チーム力を伸ばしてはいるものの、オールブラックスから歴史的な勝利を挙げる一方、年内最終戦のウェールズ戦に11-20で敗れるなど不安定な1年を過ごした。

 それでもラシー・エラスムス(Rassie Erasmus)HCは、W杯について「いろいろなチームに可能性がある」「私は1995年からW杯に関わっているが、今回は本当にどこが準決勝に勝ち進むか分からない」と話している。

 南アフリカに勝利したウェールズは、11月シリーズを初めて全勝で終え、テストマッチ連勝を9に伸ばした。しかしその間ニュージーランドとは対戦しておらず、同国相手の勝利は1953年までさかのぼらなくてはならない。ウェールズのウォーレン・ガトランド(Warren Gatland)HCは「これを継続し、できる限り注目を集めずにいきたい」と話している。

 悲惨な2018年を過ごしたフランスは、年内最終戦でフィジーに初金星を献上して1年を終え、オーストラリアも忘れてしまいたい1年を過ごした。この2チームは、W杯前は結果が出ていなくても本番にはしっかり合わせてくる傾向があるが、フランスのCTBマチュー・バスタロー(Mathieu Bastareaud)は「今がどん底だし、一からやり直さないと。今の状態はひどいし、恥ずかしい。全員がそのことを認識しないといけない」と話している。

 またティア2のフィジーがフランスに勝利したことで、ウェールズとオーストラリアも入っている日本大会のプールDは激戦区になる可能性がある。特にウェールズは、2007年大会でフィジーの後塵を拝してプールステージ敗退に終わっている。(c)AFP/Julian GUYER