【11月28日 AFP】インドネシアでは近年、自警団による殺人事件が続いている。首都ジャカルタにあるモスク(イスラム礼拝所)で4月に起きた事件では、夜明け前の礼拝直後に献金箱から金を盗んだ男が、周囲の人々に取り囲まれて撲殺された。施設の用務員が男の行為に気づき、人々が暴徒化したのだ。男が盗んだ金額は130ドル(約1万5000円)だった。

 こうした残虐行為が続く背景には、インドネシア社会の宗教的な保守化と、汚職のまん延から生じる司法制度への不信がある。

 一部の専門家は、急速な都市化で国内各地から集まった「よそ者」同士の過密状態での生活が、人々にストレスと不信感を与えていることも理由の一つとして考えられると指摘する。多くの場合、こうした人々は貧困地区で暮らしている。

 2017年にも陰惨な事件が起きている。ジャカルタ郊外の貧困地域ブカシ(Bekasi)にあるモスクで、電気器具の修理をなりわいとしていたムハンマド・ザーラ(Muhammad al-Zahra)さん(30)が、アンプ(増幅器)を盗んだと疑われて暴徒化した人々に殺されたのだ。

 ザーラさんは泥棒ではないことを説明し、殺さないでくれと命乞いをしたが、興奮状態の人々は聞く耳を持たず、ザーラさんにガソリンをかけて火を付けた。この時、見ていた人々からは歓声が上がり、携帯電話で撮影する人もいた。

 インドネシア大学(University of Indonesia)法学部のヘル・スセトゥヨ(Heru Susetyo)教授は、モスクでの窃盗をイスラム教そのものへの攻撃と見なす人々がいることを考えれば、世界最大のイスラム教国であるインドネシアで、こうした暴力事件が起きていることの説明はつくと主張する。「イスラム教を『守る』ためであれば、暴力行為に関与することすらいとわない」

 インドネシアでは、汚職が横行している法制度への信頼は低い。同国のパラヤンガン大学(Parahyangan University)法学部のアグスティヌス・ポハン(Agustinus Pohan)教授は、「権力者や富裕層は特別扱いを受ける。そのため人々は警察には任せず、自ら実力行使して決着をつけようとする」と説明した。