■野球が「締め出されている」

 昔ながらの野球ファンを抑え、キューバでサッカーフィーバーが巻き起こっている背景には、テレビ局の役割が大きい。65歳の野球ファンであるエドゥアルド・メディナ(Eduardo Medina)さんは、「午後2時には野球が8試合行われているのに、どれもテレビ中継されていない。代わりに、FCバルセロナ(FC Barcelona)の試合がやっている」と明かした。

 キューバ野球の聖地であるエスタディオ・ラティーノアメリカーノ(Estadio Latinamericano)の観客席から、同国サッカーリーグのラ・ハバナ(La Habana)とラス・トゥナス(Las Tunas)の試合を見下ろしながら、メディナさんは「これが何を物語るかって? サッカーが徐々に野球を締め出しているんだ」と話した。

 キューバでサッカーW杯が放送されるようになったのは1982年スペイン大会の録画中継からで、やがて1994年米国大会からは生中継に進化。今では欧州の主要リーグや欧州チャンピオンズリーグ(UEFA Champions League)の試合も放送されている。

 一方、野球のテレビ中継は対照的な歴史をたどっており、MLBの試合が国営テレビで放送されるようになったのは2013年になってからで、それもキューバ人選手が出場していないゲームに限られている。これらの選手は最近まで「脱走兵」と見なされていたものの、そうしたレッテルは変化の兆しを見せている。

 昨年はキューバ人選手が出場したワールドシリーズが初めて母国で録画中継されたが、今年は再び放送されず、ある男性ファンは「こういったことが、キューバの野球ファンの心を深く傷つけている」と嘆いた。

 またキューバ野球のレベルは衰退しており、2006年のインターコンチネンタルカップ(IBAF Intercontinental Cup)で優勝して以降、代表チームは主要大会でタイトルから遠ざかっている。

 草野球レベルでかかる費用も喫緊の課題だ。グローブの値段はサッカーボールと同じ約30ドル(約3400円)で、これはキューバで1か月分の給料に相当。それがチーム全体で最低9個は必要であり、加えてバットやボールもそろえなければならない。

 それに比べてサッカーは安上がりだが、キューバの野球界もサッカーの台頭を手をこまねいて見ているわけではない。東京五輪の出場権獲得を見据え、競争力を高めるために国内選手権の仕組みを変革しているほか、メインスタジアムの改修にも乗り出している。