■倫理規範の侵害?

 これらの偽論文に対し、ツィッター(Twitter)では冗談や冷やかしの声が多く寄せられた。だが研究者らは、偽執筆者らのこうしたやり方や倫理観、また標的とされた分野全般について一般化されて捉えられてしまう可能性などに大きな懸念を抱いている。

 論文の質や不正に関する問題は人文系の学問だけに限定されるものではなく、また比較的権威の低い学術誌だけにとどまるものでもない。一流の学術誌であっても、論文の撤回は頻繁に行われており、その中には著名な研究者が執筆したものもある。

 だが英サセックス大学(University of Sussex)のアリソン・フィップス(Alison Phipps)教授(ジェンダー研究)は、英教育誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(Times Higher Education)の中で、今回のケースでは研究者らは明らかに、自ら主張するような「誠意ある批判」に取り組んではおらず、むしろ「実際は、彼らが(学術的ではなく)政治的に異議を唱えている分野を間接的に攻撃することを目的としている」と非難している。

 今回の偽論文の発表には、米ポートランド大学(University of Portland)のピーター・ボゴシアン(Peter Boghossian)教授(哲学)とオンライン雑誌「AreoMagazine」のヘレン・プラックローズ(Helen Pluckrose)編集長の2人も関わった。同サイトには、偽論文に関する同研究についての詳細な報告が掲載されている。同報告はまた米紙ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)にも発表された。

 なお、犬に関する論文は、執筆者の「ヘレン・ウィルソン」が実在しない人物であることを出版社側が把握した時点で撤回されている。(c)AFP/Ivan Couronne