【10月14日 AFP】英国ほどの広さがある管轄をたった一人で担当するという考えは、多くの警察官をひるませるだろう。しかし、スティーブン・パーセル(Stephan Pursell)上級巡査(53)にとってはそうではない。

 パーセルさんは、殺風景なバーズビル(Birdsville)の町でささやかな警察署をまかされている。これが意味するのは、おおらかな性格の持ち主であるパーセルさんが、オーストラリア内陸部の広大な一帯では法であり秩序であるということだ。

 シンプソン砂漠(Simpson Desert)の周囲に広がるこの孤立した乾燥地帯では、見渡す限りの赤とオレンジの風景が広がり、まるで月面にいるような錯覚すら覚える。そして、砂ぼこりやしつこいハエ、ラクダ、野犬、毒ヘビなどが主な「連れ」となる。

 端から端まで車で4日かかる自身の管轄については「かなり大きい」と認識しているが、それでも仕事にやりがいは感じているという。

「これ(仕事)を目にした時、『なんてオーストラリアらしい場所なんだ』と思った」「だから志願した」とパーセルさん。

 こうして彼は2年前、豪東部クイーンズランド(Queensland)州の沿岸地域を離れ、1600キロ離れたこの砂漠地帯に妻のシャロンさんとともにやって来た。

 この場所は人を選ぶ。日中の気温が40度を超えることもあれば、強風を伴う砂嵐で日光が遮られ、昼でも暗くなることもある。

 パーセルさんは昨年、自身が所有するトヨタ(Toyota)のランドクルーザー(Land Cruiser)の熱くなったボンネットの上で目玉焼きを作り、その時の画像をネットで公開した。これが話題となり、画像はまたたく間に拡散した。

 人口100人余りのバーズビルには、バーの役割も担うホテル1軒と燃料と生活必需品を調達できるガソリンスタンド1軒、それにカレー味のキャメルパイで有名なパン店がある。

 小さな「商業地区」だが、荒涼とした風景の中では立派な憩いの場だ。バーズビルを取り囲むのは砂原とうねるような砂丘。これらがはるか彼方の地平線まで続いており、孤立と魅力とを兼ね備えた「無」の世界が広がっている。