【10月5日 AFP】子どもの命を救うにはただ一つの可能性しか残されていない状況に直面した南アフリカの医師チームが、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染した母親の肝臓の一部を、HIV陰性の子どもに移植する世界初症例の生体肝移植手術を実施したことが4日、明らかになった。

 南ア・ウィトウォーターズランド大学(University of Witwatersrand)などの医師チームの発表によると、術後1年が経過したこの子どもは、移植した肝臓によるHIVには感染していないとみられるという。

 ウィトウォーターズランド大の主任外科医ジャン・ボタ(Jean Botha)氏は、子どもに投与した薬剤が「HIVの感染を防いだ可能性がある。だが、これを確定的に判断するには、時間の経過を待つしかない」と話した。

 子どもは末期の肝疾患で、移植しなければ命が助からないと考えられていた。医師チームによると、子どもはドナー(臓器提供者)の待機期間が6か月に及び、死が目前に迫っていたという。

 移植手術後の母親と子どもはともに完全に回復し、良好な健康状態にあると医師チームは指摘した。母子の身元は明らかにされていない。移植後にドナーに残された肝臓は、急速に再生できる。

■HIV感染のリスク、医師団にジレンマ

 抗レトロウイルス療法(ART)による治療の効果が得られていた母親は、自分の子どもの命を救うため、肝臓を提供したいと繰り返し申し出ていた。この移植にはHIV感染のリスクが伴うため、医師らの間で大きな倫理的議論が巻き起こった。

「移植チームは、子どもの命を救う一方で、同時に子どもをHIVに感染させてしまう可能性があることを知っているというジレンマに直面した」とウィトウォーターズランド大は述べている。「HIV感染の実際の可能性については不明だった」

 世界最大規模のHIV治療計画を進めている南アフリカは、HIV感染者数が710万人に及び、成人感染率が18.9%に達している。

 同国では現在、約370万人が抗HIV治療を受けているため、HIV陽性ドナーの活用は深刻なドナー不足への取り組みの助けとなる可能性がある。南ア・ヨハネスブルク(Johannesburg)では2017年、肝臓移植を待機していた子ども14人が、手術が間に合わずに死亡した。

 ウィトウォーターズランド大の医療センターのジューン・ファビアン(June Fabian)研究部長は、プレスリリースで、「今回の画期的な移植手術が皮切りとなって今後、多数の同様な移植手術が実施され、肝移植の正当性と公平性の促進に寄与することを期待している」と述べている。

 今回の症例について詳述した研究論文が4日、査読医学誌「AIDS」に掲載された。(c)AFP